再エネの安定化費用
再エネは、当然いつも発電できるわけではない。太陽光発電は雨天には発電量は減少する。風力発電は凪では発電できない。発電が止まった時に備え常に発電可能な火力発電設備を用意しておかなければ停電になるが、バックアップ設備があっても停電が発生することがある。突然の変動に対処不可能なことがあるからだ。
風力発電設備が増えた南オーストラリア州では、昨年気候変動問題への対処もあり石炭火力発電所を閉鎖したため、日によっては発電量の半分以上を風力発電に依存することになった。凪になれば、隣のビクトリア州からの電力輸入と天然ガス火力からの供給に依存することになる。
昨年半ばから、同州では時々停電が発生するようになった。風力発電設備が停止した時に電力供給が間に合わないのだ。昨年9月の嵐の際には、強風による設備の損傷を避けるため停止する風車が出てきたところ、電圧低下を招き、タービンの損傷を避けるため全風車が相次いで停止してしまった。結果全州が停電した。今年2月の熱波襲来時には電力供給が不足し、9万世帯が停電した。
南オーストラリア州は電力供給を自由化しているので、供給が不足する際には卸電力価格は高騰する。図-5が示す通り、月の卸電力価格が日本の平均小売価格並みの1kWh当たり20円弱という月もある。この事態を乗り切るため南オーストラリア州は、州間の連携線強化、蓄電池導入、揚水発電所建設、ガス火力導入などを検討中だが、いずれも消費者に大きな負担を招くことになる。
再エネを導入した際の安定化費用を懸念しているのは、米国連邦政府だ。ペリー・エネルギー長官は、再エネ導入による送電安定化費用に懸念を示し、4月中旬再エネ導入を再度検討するように指示した。今後60日間をかけ検討が行われる。原発ゼロ・自然エネルギーが世界の流れという単純な話ではなく、再エネ導入に伴う負の側面をどのように解決し、再エネを進めるか世界の多くの国は悩みを深めている。
ソーラーシェアリングは万能薬?
原自連の吉原氏は、ソーラーシェアリングを日本の農地全てに導入すると、原発1840基に相当すると主張している。日本の農地の全てが上部に太陽光パネルを設置可能な作物を育てているわけではないし、また発電効率の違いもあるので、原発1840個分に相当することはない。吉原氏はソーラーシェアリングを行うと、500万円の売り上げがある農地の収入は5000万円になり、ポルシェが買えると主張しているが、そんな夢のような投資話があるはずもない。
ソーラー発電事業で年間4500万円の収入を得るには、今年度の買い取り価格1kWh当たり21円を基にすると、約2000kWの設備が必要だ。初期投資額として6億から7億円程度が必要になるだろう。設備を維持する費用も必要になる。初期投資の回収だけで13年から15年必要になる。ポルシェが買える投資どころか、下手をすると投資の回収もできないリスクもある話だ。
温暖化はテロも生み出す重要な問題
原自連が全く触れることがない話題は地球温暖化だ。吉原氏は日本には黒いダイヤ石炭があると主張し、温室効果ガスによる温暖化にも否定的だ。吉原氏は、日本の炭鉱に入ったことはないのだろう。炭鉱内を見たことがあるのであれば、なぜ日本の炭鉱が閉山せざるを得なかったか簡単に理解できる。黒いダイヤというのはいつの話なのか。また、今後、発電効率が向上するので化石燃料の可採埋蔵量の年月が延びるとも主張している。原発がなくても、化石燃料があるからエネルギー供給に懸念はないし、二酸化炭素が排出されても温暖化問題は気に掛けることはないと言いたいのだろう。
再エネ導入を進めている多くの国の目的は、気候変動問題に対処するためだ。国際エネルギー機関も温暖化問題への対処のためには再エネと原発導入が必要としている。原発が嫌いだから、温暖化は発生していないと主張するのは、科学的な態度とは言えない。オバマ前大統領が述べているように、世界の研究者の99.5%は温暖化が人為的な原因で発生していると考えているのが実態だ。
気候変動によりアフリカでは干ばつが進み、農業に大きな影響が生じている。図-6の通り、アフリカの多くの国は、働いている人の80%前後が農業に従事している自給自足経済だ。ドイツのシンクタンクは、チャド湖が温暖化の影響もあり干上がり(図-7)、周辺国で農業が困難になり生活が困窮していることが過激派ボコハラムを生み出したと指摘している。
温暖化対策に必要な低炭素電源の原発がなければ、新興国の旺盛な電力需要を満たすことは困難だ。原発ゼロを訴えるのであれば、情報を正確に開示することが必要だ。情報を開示せずに適当なストーリーで話をすることは、責任ある立場にいた人達の行いとしては褒められたことではない。
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