2024年11月22日(金)

イノベーションの風を読む

2017年5月17日

ディープラーニングは三度目の正直

 画像認識や音声認識のソフトウェアは以前からありましたが、機械学習、特にディープラーニングが可能になったことによってその精度が飛躍的に向上しました。認識率が95%を超えて99%に迫るようになると人間の認識能力を越え、その実用性や応用範囲は次元の違うものになります。

 ディープラーニングでは、これまで人間が与えていた「特徴量(feature)」と呼ばれるものを、ソフトウェア自身がデータの分析や行動の試行錯誤から見つけ出します。例えば、「耳の形」という「何に注目するか」という情報を画像認識のソフトウェアに与えて、猫の画像から猫の耳の形のパターンを学習させるのではなく、大量の画像の中から猫に共通する多くの特徴量を見つけ出してしまうというのがディープラーニングのすごいところです。その特徴量には、人間が気が付かなかったものも含まれているかもしれません。大量のデータに裏打ちされた特徴量を使って、新たに取得したデータを認識して予測や分類をするのでその精度が飛躍的に高くなるのです。

 「データの取得」「認識と予測・分類」「行動」の3つのシステムは、それぞれ目や耳などの感覚器官、感覚の認識と運動の学習を行う小脳、そして手や足などの運動器官に相当します。これまで目や脳を持たなかった「行動のシステム」が、取得したデータを非常に高い精度で認識し予測・分類ができるようになったことで、これまで考えられなかったことが可能になるはずです。

金脈は行動のディープラーニング

 「行動のシステム」のAIは、特に自動運転車の分野での開発が進んでいます。人間による運転の膨大な量の記録から、「データの取得システム」が収集し「認識と予測・分類のシステム」が解析した情報と、人間がとった行動(操作)との関連を学習したプログラムが、自動運転時に走行ルートや回避物などを解析して行動を選択するというものです。よく話題になる「万一、事故が避けられない状況に陥ったときに、歩行者の命と運転者の命のどちらを優先するか?」といった選択や交通法規への対応は、機械学習することではなく人間が明確にプログラムすべきことです。

 自動運転車などの「行動のシステム」の機械学習には、試行錯誤によって「行動」を習熟させる強化学習も用いられます。ある「状態」に対して、なんらかの「行動」をしたとき、その「行動」の望ましさのフィードバック(報酬)が与えられることによって「行動のシステム」が望ましい「行動」に習熟(強化)してゆくというものです。 そして、ディープラーニングが「行動」の試行錯誤から見つけ出した特徴量で「状態」を定義することによって、「行動のシステム」は「認識と予測・分類のシステム」から入力されたデータ「状態」に対する望ましい「行動」を選択できるようになります。

 パナソニックは、5年以内にAI技術者を1000人規模にまで増強し、サービス中心の事業創出を推進して「モノ売り」から脱却するという方針を打ち出しました。しかしサービス分野におけるAI、「認識と予測・分類のシステム」は、「フェイスブックやグーグル」などのインターネットに軸足を置く企業が大きく先行しています。それをこれから追いかけて「勝つ」ことは現実的ではありません。彼らが現行のビジネスから収集し続けているデータの量や質、そのデータからディープラーニングによって得た成果物(AI)を現行のビジネスに投下するサイクルのスピードは、とても「日本の電機大手」が太刀打ちできるものではありません。

 一方で「行動のシステム」のAIは、自動運転車の分野での開発は進んでいますが、それ以外のモノの行動に関与するAIの取り組みはこれからです。これまでモノを使う人が行ってきた作業を自動化したり、熟練の職人やプロフェッショナルな人だけができたことを誰にでもできるようにするなどのAIの応用が考えられますが、モノの機能によって、何を認識させ予測や分類させるのか、どのような行動を習熟させたいのか、そのためにはどんな学習データが必要なのか、といったディープラーニングのデザインが異なります。さらに、自動運転車の例では「行動の選択」までは共通ですが、実際に行動する、停止したり方向を変えたりするには、車種ごとに最適化されたアルゴリズムが必要になります。「行動のシステム」へのディープラーニングの応用は、モノをつくってきた「日本の電機大手」に残された金脈でしょう。


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