それから、私が2009年に試算したところでは、700億円くらいあれば90日分くらいの充分なレアメタルの備蓄が確保できることがわかりました。ただ、そのためには予算取りをしなければならないんですが、この700億円がなかなか出てこないんですよ。たとえば、八ッ場ダムひとつ建てるのに2,700億円かかるわけですから、そんなことにお金をかけるよりも、「国家百年の計」としてレアメタルの備蓄制度に充てたほうが国益に合致するんじゃないか、と思っています。
また、日本の強みは省エネ技術やリサイクル技術などの技術開発力にあります。電子素材や電子部材、加工材の生産で、日本は世界の65%のシェアを握っていますし、韓国や台湾、中国などの企業は、日本から素材や部品が調達できなければ、薄型TVや携帯電話などを生産することができないわけです。こうした現状を踏まえて、日本が持つ技術力を資源外交にどうやって生かしていくか、これも戦略的に考えなければいけません。技術開発力の優位性を保っていくためには、国家規模で新技術の開発に集中していくことも必要になるでしょうね。
こうして挙げていけばキリがないのですが、レアメタルの安定供給を構成する要素を分析したうえで、長期的な視点に立って国がプライオリティを決めて進めていく。それと同時に、行政と産業界の縦割り構造の問題を抜本的に解決していく。そういったことができない限り、これまで通り民間企業が個々に頑張っていくしかないでしょう。
中国を見習い、国家としての戦略を練るべきとき
──行政や産業界の縦割り構造を壊すには、具体的にどうすればよいのでしょうか?
中村社長:産業界は徐々に縦割り構造が崩壊しつつあるようです。川下のセット機器メーカーの力が弱くなりつつあります。逆に素材メーカーの一部には、ニッチだけれども世界シェアを9割以上有する企業(電池素材など)も出てきました。また総合的な技術開発や政府主導でイノベーションをめざすケースもあります。今のままでは日本の産業が崩壊しますから変化はこれからだと思います。
一方、官界の組織に横串を通すのはかなり困難でしょう。今の民主党と自民党の二大政党が順番に政権を握るようになれば米国のように官界も変化してくるでしょう。これには時間が掛かります。
──グランドデザインを描くために、国がまず具体的に取り組むべきことは何でしょうか?
中村社長:政治家も官僚も、まずは勉強をして現場を見ることです。省庁間の意見交換を密にすること、民間と経産省との交流をもっと増やすこと、経産省に民間からの「天上がり」を増やすこと。官民学の交流も必要です。特に政治家については資源国に行くこと。中国を見習うべきです。現場に入れば戦略性も浮かんでくるでしょう。
1947年生まれ。レアメタル専門商社・アドバンスト マテリアル ジャパン(AMJ)社長。『2010年以降の世界経済・株式投資・資産運用法』(フォレスト出版)、特別CDを上梓。