世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年5月26日

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 米中関係は、歴史的に見れば既存の覇権国と台頭する新しい大国との関係です。ギリシャの歴史家ツキュディデスが名著『戦史』で描いているように、スパルタに対しアテネが挑戦し、ペロポネソス戦争となりました。現代では19世紀後半の欧州で、既存の覇権国英国、フランス、ロシアに新興ドイツが挑戦し、第一次世界大戦を招きました。

覇権国米国に、中国が挑戦する構図

 米中関係は、特に東アジアにおいて、覇権国米国に、中国が挑戦する構図となっています。
スパルタに対するアテネの挑戦、英国、フランス、ロシアに対するドイツの挑戦はいずれも戦争を招きましたが、エコノミスト誌の指摘するように、米中の衝突は不可避ではありません。中国の台頭は著しい経済発展を原動力としましたが、その経済発展は、中国が米国主導のブレトン・ウッズ体制の恩恵を最大限受ける形で実現しました。世界最重要となった米中の経済関係を特色づけるのは相互依存です。

 これに対して、安全保障面では、エコノミスト誌の指摘を待つまでもなく、アジアを中心に米中両国が覇権を争っています。中国が南シナ海の支配を目論んでいるのに対し、米国はアジアで中国が覇権を握るのを阻止しようとしています。これはうまく管理しないと武力衝突に至る危険があります。

 トランプ政権の誕生で、今後の米中関係は不確実性が高まっています。その大きな要因は、トランプに戦略がないことです。トランプに戦略がないのは対中政策に限ったことではありませんが、米中関係の重要性を考えれば、その影響は大きいです。

 トランプ大統領は取引的やり方を好みますが、エコノミスト誌は中国が早くもそれに付けこみ、雇用の創出を材料に、トランプの対中批判を和らげるのに成功していると言っています。今後、トランプが対中関係の管理で、どんな取引的やり方をするのか予測がつきません。

 今後の米中関係で不確実性が高まっている今一つの理由は、トランプのスタッフの間に意見の対立があることです。対中強硬論を主張する者もいれば、より現実的なアプローチを支持する者もいるとのことです。そのうえ、国務省、国防省の政治任命のポストの多くが未だ空白であるといいます。これでは地に着いた一貫性のある政策の実施はままなりません。

 当面、安全保障分野での最大問題は北朝鮮です。トランプは中国の影響力に期待しているようですが、中国が北朝鮮の体制を危うくするような圧力を北朝鮮に加えるとは考えられません。トランプの中国に対する期待が大きいだけに、中国の圧力が不十分であることが分かった時に、トランプが北朝鮮に独自の行動を取る危険があります。

 北朝鮮情勢は危機をはらんでいますが、米中の利害が正面から対立している問題ではありません。米中双方とも北朝鮮の非核化を望んでいます。したがって、北朝鮮問題をめぐって米中が正面から軍事衝突することは考えにくいです。

 米中関係の深刻な危機となる恐れがあるのは南シナ海問題でしょう。これは上述のように、米中の利害が衝突する状況です。この問題をいかに管理していくかが、米中両国に与えられた大きな課題です。

  
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