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2010年7月26日

 「勘というのは、棚ボタ式に出てくるものじゃない。それまでに経験したことが体の中に残っているから、ピンとくるんです」

 仕事でも何でも、「これだ」という直感がよい結果をもたらす例は少なくない。論理的でも科学的でもないだけに、いい勘をしている人は、とかくその天分をうらやましがられる。

血や肉になっている経験がリアルタイムに
出てきて、それでピンとくる

飯島澄男(いいじま・すみお) 1939年生まれ。東北大学大学院物理学科博士課程修了。91年に第5の炭素物質・カーボンナノチューブを発見。現在は名城大学大学院理工学研究科教授、NEC特別主席研究員などを兼ねる。文化勲章受章者。            写真:田渕睦深

 しかし物理学者の飯島澄男は、勘とは経験の蓄積であり、決して天から降ってくるものではないと言う。飯島は1991年にカーボンナノチューブ(CNT)を発見。CNTは針状の結晶をした第5の炭素物質で、高強度、導電性などの特性から燃料電池をはじめとする産業応用が期待されており、飯島は毎年のようにノーベル賞候補に取りざたされている。

 CNTはナノサイズ(10億分の1メートル)だけに、高分解能の電子顕微鏡(EM)を駆使することで発見された。それまで、炭素原子の針状の結晶は、その存在すら知られていなかったから、当然ながら飯島もCNTを探していたわけではない。当時の飯島は、かつて自身が見たことのある、炭素原子のタマネギ形状の結晶を見つけようと、炭素からなる物質を片っ端からEMで見ていた。

 「タマネギ形状の結晶を探して、試料をつくってはEMで見るという毎日を送っていました。『(タマネギ形状が)ないな、ないな』というのを繰り返して6カ月ほど経ったある時、細長い針のような結晶が見えました。『これはおもしろい』と、すぐにピンときたんです」

 それまで炭素については、4種類の原子構造があることが確認されていた。タマネギ形状も、第4の構造であるフラーレン(1985年に英国人研究者らによって発見、発見者はノーベル賞を受賞)に似たものだ。EMを覗けば、当然4種類のどれかが見えるわけだが、さまざまに混合しているからそう単純ではないらしく、飯島も「おや」「これは何だ」と感じたことは山ほどあると言う。

 石の出ない鉱脈を掘っても時を失するように、研究においても「おや」と感じた対象が突っ込んでみる価値のあるものなのかどうか、その取捨選択が生命線だ。だからこそ「勘を働かせて、本道から外れないよう適当に端折ることが大事です」と飯島も言うのだが、ではどうして針状結晶の時は「おもしろいに違いない」という勘が働いたのか。

 「銀の結晶は、普通は丸い形なんですが、大学院生の時に細長いものを発見したことがあるんです。細長くなるには立派な原因があって、調べて論文に書いた。そのアナロジーで、炭素でも針状になるのは何かあると」

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