2022年9月25日(日)

定年バックパッカー海外放浪記

2017年7月2日

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高野凌 (たかの りょう)

定年バックパッカー

1953年、横浜生まれ。神奈川県出身。大学卒業後は商社、メーカー勤務を経て2013年定年退職。2014年春から海外放浪生活を始める。放浪歴は地中海、韓国、インドシナ半島、インドネシア、サンチアゴ巡礼など。サラリーマン時代は主として海外業務に従事。ニューヨーク、テヘラン、北京にて海外駐在を経験。身長170センチ、57キロ。獅子座。A型。現在2人のご子息は独立し、夫人との2人暮らし。孫1人。

考古学者のマリア

 4月27日(水)。夕刻Antelope洞窟見学を終えてから一路南下してKayentaのモーテルに泊まった。夕食後に付近を散歩。モーテルに戻ると隣の部屋の客がベランダで煙草を吸っていた。40代と思しき白人女性でありマリアと名乗った。

 彼女はボストン大学で考古学を専攻。専門はマヤ文明。メキシコ、グアテマラで何度も遺跡調査した。今回はナバホ自治政府の委託でナバホの遺跡を調査。マリアは離婚経験があり現在はボーイフレンドと暮らしているという。

中西部最大のユニオン砦。19世紀を通じて米国歴代政権は先住民への敵対政策を続け居留地に圧し込めた

先住民は白人から収奪抑圧され居留地に押し込められた

 マリアによるとナバホは母系社会であるがやはり男尊女卑の伝統が強く残っており現在でも女性は役所や事務所などで雑用しか与えられないという。

 マリアは先住民の歴史について明快な見識を披露してくれた。米国連邦政府の先住民政策は代々一貫しており、先住民の生活空間を奪い白人移住者に土地を供給してきた。そして先住民の生活圏を確保するという名目で居留地を設定した。しかし居留地内でも金鉱が発見されたり白人農民の要求があれば容赦なく土地を収用してきた。

 その結果先住民は指定された荒れ地の居留地に押し込められ白人社会から分断された。先住民の生活水準向上や義務教育普及という政策を連邦政府が検討開始したのは1950年代以降である。つまり南北戦争後に徐々に市民権を確立していった黒人よりも先住民の社会的地位はずっと低いままであった。

ナバホの若者が肥満体になる深刻な構造的問題

同上

 マリアによると歴史的背景もあり居留地で教育を受けたナバホの若者は居留地の外、すなわち白人社会に出てゆくことに消極的という。言葉や人種や教育水準の壁が彼らを内向きにしてしまう。居留地で暮らして一定の条件を満たせば年金や補助金をもらえるので最低限の生活は保障される。

 外部世界に出てゆけない若者たちは居留地で生活補助を受けながらガイド、ドライバー、土産売りといった観光産業の末端を担い、時には道路工事などの公共事業で手間賃を稼いでいるという構造である。

 Antelopeの観光事業は地元のナバホ族の権益なので無駄に多数の若者を雇用しているという。他方でグランドキャニオンなどは国立公園に指定されているためナバホの自治権は制限され連邦政府が直接管理しているので先住民にお金は落ちない仕組みという。

 「人生に夢や希望がなければ若者は生きる目標を失うわ。毎日TVを見てビールを飲んでポテトチップスを食べていれば肥満体になるのは当然よ。先住民の男の多くはアル中なの。だから居留地ではビールなどアルコール販売が禁止されているわけ」とマリアは嘆息した。

「旦那、小銭持ってるかね?」

 4月28日(木)。モニュメントバレーから戻り、夕刻Tuba Cityでビールを買おうと寂れた街を歩いていたらスーパーの横の暗がりからナバホの男数人が現れて“Do you have small change?”と小銭をねだってきた。彼らは小銭を集めてビールを買おうとスーパーの横でたむろしていたのだ。

⇒(第15回に続く)

  
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