山梨県内の観賞魚関係者によると「ニシキゴイは模様などによって価格差があるためどうしても『ハジキ』と呼ばれる売れ残りが出る。これを処分すると、産業廃棄物のためお金がかかる。一般論だが、放流のために買い取ってくれるとなれば、お金を払うどころか収入になるので、業者としてはありがたいもの」と語る。
今回、NPOに販売業者が無償提供したのか、NPOが有料で買い取ったのかは不明だが、維持管理だけで餌代など経費がかさむことを考えれば、少なくとも観賞魚業者にとって放流は悪い話ではなさそうだ。
このようなニシキゴイや金魚といった観賞魚の川への放流は、岐阜県高山市や大阪府泉佐野市など各地で行われており、珍しいことではない。泉佐野市では昨年、インターネット上で起こった「炎上」によって金魚の放流イベントが一時は中止になったにもかかわらず「30年近くの伝統がある」「下流にネットを張るなどの対策をした」としてすぐ再開された。放流すれば再び物議を醸すリスクをおしての再開からは、なかなか放流を止められない事情が垣間見える。
昨年12月に神奈川県川崎市にある多摩川の支流・五反田川で行われた放流イベントでは、800匹のニシキゴイが放流された。ニシキゴイを無償提供したNPO法人「おさかなポスト」の山崎充哲代表が取材に応じてくれた。
「ニシキゴイ放流がベストの選択肢とは思っていないが、ニシキゴイ放流によって住民や行政が川に関心を持ってくれる。それが環境改善につながる。放しているのはニシキゴイの幼魚で、すぐにカワウやサギなどの天敵に食べられてしまうため生き残れない。また、今回放流した川は堰(せき)で区切られているため、多摩川にニシキゴイが流れ着くことはほぼあり得ない。そもそも多摩川は高度経済成長期に一度死の川になったため、本来の生態系は破壊されている。ただ、今年はニシキゴイを放流する予定はない」と説明する。
なお、山崎氏は『タマゾン川』の著者として知られ、多摩川の外来種問題についてかねて警鐘を鳴らしており、飼い主が飼いきれなくなった観賞魚を引き取る「おさかなポスト」を創設、自費で運営している人物だ。山崎氏ほど考えずに放流している例も全国には数多くあるだろう。
湖沼と異なり、河川での調査は難しくニシキゴイの放流が川の生態系に悪影響を与えるという確たるエビデンスはない。だが放流するのであれば少なくとも「たぶん大丈夫だろう」ではなく、科学的な知見を基に行うべきだろう。「予防原則」の下、生態系に影響がないことを確認してから放流を行うべきではないだろうか。