一方、震災でヒラメの種苗生産施設が被災し、放流量・漁船数が共に激減した宮城県では、11年の漁獲量288トンに対して12年は197トンと減少したものの、13年は987トン、15年には1644トンと急増している。自然に任せることが何よりの漁獲量向上につながる方策のようだ。
前途多難の法規制 生態系を守るためには
話をニシキゴイに戻すと、ニシキゴイの放流を規制する法律はない。では全国各地で行われている放流を防ぐ手段はあるのだろうか。
放流を規制できるのはブラックバスなどが指定されている外来生物法のみだが、運搬や飼育なども禁止されてしまうため、産業として成立しているニシキゴイを同法の対象にするのは実質的には不可能だ。そうなると、都道府県レベルでの条例や漁業調整規則、内水面漁場管理委員会指示での放流規制が最も現実的である。
しかしこれを実現できている自治体は存在しない。ブラックバスのキャッチアンドリリース禁止など生物多様性保護では先進的と専門家から言われている滋賀県でも同様だ。愛知県では10年、既存の条例に盛り込む形で外来種の放流禁止を規定したが、指定対象選定の際にコイを加えるかどうかが議論になった。だが「コイ放流に歴史と文化がある」「広くなじまれている」など愛着を理由に指定を見送った。
またこの条例の場合、たとえコイが指定されていたとしても罰則はない。では罰則つきの条例で放流を規制すればいいのかというと、そう単純でもないようだ。指定対象選定の際に委員として参加した名城大学・谷口義則准教授は「日本は野生動物関連や動物愛護関連の法律における法的執行力が弱すぎる。現行犯でない限り魚の放流嫌疑での逮捕は難しい」と指摘する。
法規制と併せて生物多様性の教育を進める必要もある。博物館や水族館の教育機能を充実させるべきという意見もある。学校の教員の指導だけでは専門知識不足ということもあり、どうしても限界がある。
7月15日には日本魚類学会がニシキゴイや金魚など人工改良品種の野外放流に関するシンポジウムを開催するなど、専門家の間でも危機感が高まりつつあるようだ。
一度人の手で壊した自然を復元するのは至難の業だ。川のような身近な環境にも複雑な生態系が構築されていることを認識し、安易な放流はやめるべきであろう。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。