絵画のヒストリア
古今東西の名画をめぐってその成り立ち、画家やモデルの秘話、時代を隔てた作品の流転や社会のなかに立ち上がる物語を、図版と文章を通して描いてゆく。
-
絵画のヒストリア⑰
2024/11/24 柴崎信三モネの連作『睡蓮』が繰り広げる〈美の饗宴〉は、フランスの政治家、クレマンソーとの間に結ばれた古い絆を抜きにして語れない。これが日本の国立西洋美術館で展示されたのは、実業家である松方幸次郎の存在も大きい。
-
絵画のヒストリア⑯
2024/11/03 柴崎信三森鴎外は留学先のミュンヘンで出会った日本人画家、原田直次郎が才色にあふれた女性との恋を素材に『うたかたの記』を書いた。たまたま当地で遭遇した国王ルートヴィヒ2世の不可解な溺死という事件が、大きな飛躍へのモチーフをかたち作った。
-
絵画のヒストリア⑮
2024/10/06 柴崎信三レオナルド・ダ・ヴィンチは生まれ持った美しい器量と才知、自然への鋭い洞察と怜悧なまなざしを持つ万能の天才だからこそ、故郷のフィレンツェを追われ、各地を渡り歩くことになった。きらびやかな才知の遍歴のはての哀歓は、晩景にも表れる。
-
絵画のヒストリア⑭
2024/08/31 柴崎信三画家を志し美術学校に通い、ウィーンの美術アカデミーを二度受験しながら「知力貧弱」「デッサン不可」で失敗した名もない青年、アドルフ・ヒトラー。ナチスの政治活動に加わりドイツの総統になった彼が1937年夏、「美の都」で二つの美術展を開いた。
-
絵画のヒストリア⑬
2024/08/04 柴崎信三長谷川潾二郎は戦争を挟んで〈昭和〉を生きた画家である。世塵から離れて静物と猫と穏やかな風景ばかりを描き続けた。ほとんど波乱のないその歩みと寡作といわれる作品を見れば、静謐と孤高に生きた画家と呼ぶのがふさわしい。
-
絵画のヒストリア⑫
2024/07/14 柴崎信三ジョヴァンニ・ドメニコ・ティエポロの『メヌエット(カーニバルの光景)』は、ヴェネツィアのカーニバルの一場面を描いている。文豪・ゲーテは、この街が醸し出す情念のカオスのような眺めが新鮮で心が躍り、ここに蔓延る詐欺師たちに終生取りつかれる。
-
絵画のヒストリア⑪
2024/06/02 柴崎信三15世紀末葉、金融や交易などを通して遠くオリエントにまで影響力を広げたメディチ家。若い当主兄弟を襲った「パッツィ家の陰謀」を機に、権力闘争が繰り広げられ、「美の復讐」が繰り広げられた。
-
絵画のヒストリア⑩
2024/05/12 柴崎信三戦後、〈故郷喪失者〉として異郷で画家としての人生を歩んだ藤田嗣治と国吉康雄。対照的とも言えるキャリアを歩んできた二人の日本人画家の足跡は、どこかで歪みながら奇妙な相似形を描いているようにも見える。
-
絵画のヒストリア⑨
2024/04/07 柴崎信三戦間期のパリの街にはその美の輝きを求めて米国や欧州各国から才能を恃んだ多くの若い芸術家たちが集っていた。後年のヘミングウェイが振り返って「移動祝祭日」と呼んだのは、それがまさしく祝祭の華やぎと興奮に包まれた日々であったからであろう。
-
絵画のヒストリア⑧
2024/02/25 柴崎信三今でも人々に語り継がれる三島由紀夫の自決は「聖セバスチァン」という古代ローマの青年の殉教の場面と重なり、その伝説を戯曲化して自らも祖国のための蹶起した20世紀のダンヌンツィオという〈英雄〉の舞台とも重なる。周到な「舞台」はどう作られたか。
-
絵画のヒストリア⑦
2024/01/28 柴崎信三米国の絵画史なかでは古典的な名作を描いてきたエドワード・ホッパーは、独立から一世紀余りで世界一の経済大国に発展し、大恐慌を経験した米国社会を表出させ、芸術家たちが欧州の歴史と伝統に対する根強い文化的なコンプレックスを持つ様子を見せる。
-
絵画のヒストリア⑥
2023/12/30 柴崎信三東京美術学校校長であった岡倉天心の行動原理は、〈美術〉を通して日本の伝統文化を近代国家の仕組みの中の「正統」として位置づけようという「官僚」のそれである。ただ、彼の自己演出の才覚が〈日本〉を世界に示す場面を作ったことも忘れてはなるまい。
-
絵画のヒストリア⑤
2023/11/26 柴崎信三レンブラントの代表作「夜警」は、当時のオランダ・アムステルダムが西インド諸島や南米など植民地の富をもたらし、人と資金の流入と新しい技術の発展を促した都市であったことを物語る。チューリップ・バブルと呼ばれる投機ブームでの狂騒も描いている。
-
絵画のヒストリア④
2023/10/25 柴崎信三夏目漱石の『虞美人草』の美貌のヒロイン藤尾は、まわりの男たちを翻弄した挙句、わが身の虚栄と驕慢に引き裂かれるようにして頓死する。漱石が門下に「嫌な女」と伝えるほどの存在のモデルは漱石がロンドン留学時の経験が影響している。
-
絵画のヒストリア③
2023/10/01 柴崎信三スペインの歴史の暗転を表徴する名画として知られるゴヤの『カルロス4世の家族』。王宮の広間に、国王夫妻とその一族がきらびやかな盛装で立ち並び、観者へ視線を向けているが、登場者たちの表情はどこかぎこちなくこわばって奇妙な静寂に包まれている。
-
絵画のヒストリア②
2023/09/03 柴崎信三フランスの英雄・ナポレオンの肖像として有名な「サン・ベルナール峠を越えるボナパルト」。これを描いたジャック=ルイ・ダヴィッドは、フランス革命の記録画でも知られている。その数奇な運命と出会いとは。
-
絵画のヒストリア①
2023/08/05 柴崎信三ヨハネス・フェルメールの名作『真珠の耳飾りの少女』のモデルとなったとも言われる巨匠グイド・レーニが描いたという『ベアトリーチェ・チェンチの肖像』。多くの作家たちに書き継がれてきた「チェンチ」事件の概要と名画の謎を探っていきたい。
|
|