財政危機、そして少子高齢化が進む中、年金など現行の社会保障制度の下で安心して暮らすことができるのはあと10年程度と言われる。増税の議論も立ち消え、もはや政治に任せておいても問題は解決ならず、今の30、40代の老後は不安だらけであろう。ならば、「国任せ」の意識を改革し、今から実行可能な自衛策として考えられる生き方を探ってみてはどうだろうか。
梅雨明け後からずっと、猛暑を通り越して酷暑が続いているが、東京都監察医務院によると、7月中旬から月末までの10日間で、東京23区で75人もの熱中症死者が出たそうだ。その多くは一人暮らしの高齢者が自宅で死亡していたケースで、室内の温度や体調に目配りしてくれる家族などがおらず、倒れても気づかれないまま死亡したとみられるとのこと。
高齢化、核家族化が進む中、こうした事件は「自分とまったく無縁」と言い切れない人も増えているのではないだろうか。同シリーズで見てきたように、日本が財政破綻した場合、またはしなくとも、人々の日々の生活は苦しくなり、今まで国に甘えてきたことを自分たちでやらなければならなくなるかもしれない。未来に明るい展望が見えない中、何でも国におんぶに抱っこの意識はもう危険だ。「自助・共助の精神」を今から養っておくためにも、今回は「30、40代からできる自衛策」として、「地域で生きていく」ことを提案したい。
「コミュニティ・スクール」が地域を元気にする
「最近、退職後ボランティアデビューするために、定年前から準備している人が増えています」と語るのは、生涯学習論や社会教育学を研究する日本大学教授・佐藤晴雄氏。「セミナーなどを開催すると、60代になったばかりの方がたくさん参加されます。皆“根無し草”のような生活は送りたくないですからね」。
現役時代は朝から晩までバリバリ働き、家には「寝に帰るだけ」というような生活を送っていた人たちが、ふと定年後の自分を想像し、一体どんな生活を送ることになるのだろうと怖くなるのだろうか。「趣味もなく、生きがいだった仕事から離れ、毎日何を楽しみに生きていくのか。自分も妻も、万が一病気になったらどうしよう。子どもは家を出て遠くに住んで自分の家庭をもっているから、もうあてにできない…」。そんな暗いことばかりが浮かんでくるのかもしれない。
もちろん、そこで「ボランティア」という選択肢を選べる前向きな人はおそらく問題ないのだろう。しかし中には「隣人にすらまともに挨拶もしたことがないのに、今更地域のボランティアなんて…」と尻込みする人も大勢いるはず。そうなる前に、地域の人々とのつながりをしっかりと築いておくことが大切だ。いざという時、頼り・頼られる関係は大きな支えとなるだろう。それには「子どもを媒介とするのが非常に有効」と先述の佐藤氏は力説する。「例えば、学校というものが一つポイントとなる」と。
「コミュニティ・スクール」をご存知だろうか。文部科学省が「地域に開かれ、地域に支えられる学校づくり」を推進するため、平成16年に「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」が改正され、教育委員会の判断により、保護者や地域の人々が、合議制の機関である「学校運営協議会」を通じて一定の権限をもって学校運営に参画することが可能となり、広がってきている学校だ。この「コミュニティ・スクール」を軸に、地域の人々のつながりを深めている、先進的な事例がある。千葉県習志野市の秋津地区だ。