フィリピン政府は5月半ば、欧州連合(EU)からの2億5000万ユーロ(約300億円)に上る無償資金援助について、内政干渉などを理由に拒否すると発表した。ドゥテルテ大統領はこれまで、現政権が進める麻薬撲滅戦争を批判するEUに反発し、双方の関係はぎくしゃくしていた。今回の発表はこうした経緯が影響したとみられる。
現地報道などによると、この援助案件は、イスラム教徒が多いフィリピン南部、ミンダナオ島における開発事業だった。アベリア大統領報道官は記者会見で、大統領が財務省の勧告に基づいて判断したと述べた上で「国内政策が干渉される恐れのある案件だった」と語った。
アベリア報道官はさらに、貧困削減や経済開発など、EUからの他の援助案件については今後も受け入れる用意があるとして、今回の措置が限定的であることも強調した。
しかし、この発表の数日後、EUのジェッセン駐フィリピン大使は「決定の真意を明確にしたい」と語っており、拒否発言が公式ではない可能性に含みを持たせた。
EUはこれまで、ミンダナオ島の和平実現に向けた開発援助事業に18億ペソ(約40億円)を拠出してきた。
欧州議会は今年3月、フィリピンの麻薬撲滅戦争や死刑制度復活への政治的動きを批判する決議を採択。特に麻薬撲滅戦争では、超法規的殺人を阻止するため、フィリピンに対する特恵関税の適用を除外する方針も盛り込んだ。
これを受けてドゥテルテ大統領は、欧州議会の議員について「頭がいかれている。全員処刑してやる」と暴言を吐いて反撃。EUは即刻、ベルギーに駐在するフィリピン臨時代理大使を召喚し、大統領発言は「容認できない」として釈明を求める事態に発展していた。
一方で、今回の拒否発言は、ドゥテルテ大統領が中国訪問から帰国した直後のタイミングで行われたことから、比中の蜜月関係がその背景にあるのではとの憶測も広がっている。訪中時の習近平国家主席との会談では、インフラ開発の事業可能性調査に5億元(約80億円)の対フィリピン無償援助を実施することで合意した。
ドゥテルテ大統領は昨年10月に訪中した際、領有権を争う南シナ海問題を棚上げし、中国から総額240億ドルに上る支援を取り付けた。こうした経緯もEUへの強気な姿勢に拍車を掛けたとみられる。
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