中国では、わが国では考えられないほど国家により個人情報が管理されているが、6月1日施行の「インターネット安全法」は、これをさらに一歩進めようとするものだ。もともと、個人の経歴は中国共産党や公安警察が所管する「档案(とうあん)」(以下、個人情報書類)に記され、当人の移住・転職ごとに移転先の党・機関(以下、国家)に送られる体制である。
外国人もその対象であり、ひとたび中国に長期滞在すれば、自分の個人情報書類が作成されていると覚悟する必要がある。その一方で、外国のインターネットサービスであるグーグル、フェイスブック等は基本的に利用できないなど情報鎖国状態にある。
こうした現状を踏まえて今次法律を見ると、第一に注目されるのは、インターネット上の個人情報や、ビジネス活動を通じて企業が得た個人情報の国家管理を明文化したことだ。
「総則」部分で、「いかなる個人や組織も情報ネットワークを使って、国家の安全や栄誉、利益に危害を与えること、政権や社会主義制度の転覆を扇動すること、国家分裂や国家統一の毀損(きそん)を教唆すること、テロリズムや過激主義を流布すること、民族への憎悪や差別をあおること、暴力やわいせつな情報を流布すること、デマを流して経済や社会の秩序を混乱させること(中略)などを行ってはならない」としていることは国家が何を恐れているのかを示している。
第二は、広範な義務規定を設けるとともに、官民共同でネットを管理するとしていることだ。
具体的には、①ネット運営者に利用者個人情報の登録義務付け、②ネット業者に国家への協力(情報提供等)を義務付け、③国内で収集した重要データを国内で保存することを義務付け、④ネット運営者に違法情報を削除できる権限を付与したほか、⑤「社会安全にかかわる突発的事件の場合は」ネットを遮断できるとしている。
第三は、ネットワーク関連サービスへの参入障壁が高く、罰則が重いことだ。
①企業が情報ネットワーク製品・サービスを提供する際は国家の審査・許可を必要とするほか、②各種ネットワークサービスに登録・加入する際に「実名登録」を求め、③公安・国家安全機関が安全維持活動、犯罪捜査を行う際に協力を義務付けている。
違反すると、重要インフラ運営者の場合は10~100万元(170~1700万円)の罰金を課すほか、業務の一時停止を命じることができるとしている。
外国企業にとって問題なのは、抽象的で不明確な規定が多いことだ。現地外国企業からは法の運用を懸念する声が上がっている。
また、個人情報については、「ネット決済を通じて既に国家に把握されている」(現地邦人ジャーナリスト)のも事実であろうが、それを使って国家が個人レベルにまで統制力を及ぼそうとしていることは、現政権の志向を示すものとして注意しておくべきであろう。
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