2024年4月25日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年8月4日

 インドと中国はずっと、中国、インド、ブータンに挟まれたアルナーチャルプラデシュ州をめぐり領有権争いをしています。1962年の中印国境紛争はこの地域の所属をめぐって戦われ、人民解放軍がインド軍を圧倒し、一時全域を占拠しましたが、その後、マクマホン・ラインまで人民解放軍が撤退し、現在はインドが実効支配をしています。

 この領有権問題は中印関係が悪くなると再燃します。今回も同じですが、6月16日から中印両軍がにらみ合っており、対峙している期間が、この論説が指摘するように、1962年の中印国境戦争以来、最も長期になっています。

 この領有権問題が妥協によって解決されることはこれまでの経緯から見て望みがたいです。領土問題の解決はそう容易ではありません。しかし同時に、両国とも今の時点で大きな戦争に踏み出す可能性は小さいと思われます。結局は中国側の道路建設は行われることになるでしょう。この道路は戦略的には大きな意味を持ちます。中国側がいざという時にシリグリ回廊(ネパール、バングラデシュの間の狭い回廊)を奪取・制圧し、インド北東部をインド本体から切り離すことができるようになります。

 中国は東シナ海と南シナ海での領土問題について強い態度をとっていますが、対インドの陸上国境についても同じように強い態度に出ています。

 緊迫した中印関係がアジア情勢の一つの「常態」になる可能性を、この論説は述べていますが、その通りでしょう。しかしその状況はインドが米国を含む西側、日本等との関係を重視する方向に働くのでしょうから、日本から見てそう悪い事ではありません。

  
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