2024年11月25日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年9月4日

 この論説は、的を射た良い論説です。

 トランプはイラン核合意について強い不満を表明しています。トランプの不満は、核合意がミサイル発射やイランの中東でのヒズボラ支援などの「悪質な行動」の抑制に役立っていないということのようです。しかし、そもそも核合意は、そういうものを抑制する目的を追求したものではありません。トランプ自身、イランの行動は核合意の「精神」に反していると言っていますが、イランが合意違反をしているとは言っていません。

 この社説とは別に、ニューヨーク・タイムズのサンガー記者は、7月27日付け同紙に、「トランプはイランが核合意に違反していると宣言する方策を捜している」(Trump Seeks Way to Declare Iran in Violation of Nuclear Deal)と題する記事を書いています。同記事には、トランプはイランのパルチン軍事基地に対し、秘密の核活動が行われていないことを確認すべく国際査察を行うことを主張、イランが拒否すれば、イランは合意違反であるとするなどの道を探っている、トランプは何としてもイランが核合意に違反していると宣言したがっている、と書かれています。

 このトランプの動きは、困ったものです。この件で思い出されるのは、1994年の米朝間で結ばれた北朝鮮の核問題に関する米朝枠組み合意が失敗に終わった経緯です。この枠組み合意署名後、共和党が議会の多数を占め、この合意を対北融和策として攻撃しました。北は米国の対応に反発しました。「クリントン政権のやったことにはとにかく反対」というブッシュ政権が、議会共和党とともに、軽水炉ができるまでの重油提供、代替の軽水炉建設費、北への経済制裁解除などで難問を提起していました。北は、米国は約束違反をしているとして、枠組み合意破棄を脅していました。最終的に枠組み合意が崩壊したのは、北がウラン濃縮を秘密裏にやっていることが判明したからですが、米国が枠組み合意を尊重していたら、崩壊は起こらなかった可能性があったとも考えられます。枠組み合意の崩壊が、今の核兵器を保有し、ICBMの開発を進める北朝鮮の脅威につながっているのです。

 トランプが微妙なバランスで出来ているイラン核合意を壊せば、戦争をしてイランの核兵器を阻止するか、あるいはイランが核兵器保有国になるのを黙認するかしかなくなります。再交渉などありえない話です。中東情勢は危険なものになります。イラン国内にもロウハニが進めたこの核合意を批判している勢力がいます。

 米朝枠組み合意と違い、イラン核合意はイランとP5(安保理常任理事国)+ドイツの多数国間合意です。米国が抜けて制裁を復活させても、中ロ英仏独がイランとの再交渉に応じたり制裁を再度イランに課したりすることにはならないと思われるので、イラン核合意は壊れないともいえます。そうなると、イランよりは、米国が孤立することになります。

 イラン核合意放棄には今のところティラーソン国務長官、マティス国防長官、マクマスター国家安全保障補佐官、コーカー上院外交委員長も反対しています。米国以外の当事国も反対している。この反対論がトランプを翻意させる可能性はまだあるように思われます。

  
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