誰もがスポーツを楽しめる社会とは
田中:一方で、共生社会が美談になりつつあると思うんです。それが素晴らしいことなんだと。確かに共生社会は素晴らしいのですが、私たちは美談になる怖さも伝えていかなくてはいけないと思います。
最初は、かわいそう、大変な人たちだ、という感覚からはじまって、次は、障害があってもこんなにできるに変わって、最後は特別な人ではなく普通にそこにいる身近な人という感覚になっていく。
こういう段階的な変化をもたらすにはある程度の美談は必要です。でも反面、危機感を持つことも必要です。
初瀬:今は障害者のことは批判しにくかったり、障害者に対しての苦言は障害者じゃないと言えないですよね。障害者スポーツにしても、当事者以外の人は意見しづらい雰囲気もあるのが事実です。
田中:障害者でもダメなものはダメ。そこをはっきりさせなければいけないことだってあります。
障害者も理解してもらおうと思ったら、自分たちも変わらなければいけません。努力をしなければならないんです。そのためにパラリンピアンがドアを開けていく必要があると思います。
ある選手が「かわいそうという存在から、パフォーマンスを見せることによって尊敬に変わる」と言っているんです。今後2020年に向けてパラリンピアンに求められる行動も変わってくると思います。
初瀬:きちんと言うべきことは言えるような社会にならなければいけません。その反面、言えないような障害者たちがいることも事実です。障害についても直接本人に聞けたり、障害者も普通に話すことができなければ、いつまでたっても、かわいそう、大変な人たちという見方からは抜け出せません。
こうしたことが話題になることすらなかった社会ですから、これも無形の変化だと思います。きっと今後はこうした議論が増えていくでしょう。
ただ、パラリンピックは障害者のオリンピックとは言われていても、ほんの一部の障害者向けのものです。パラリンピックが障害者を引っ張っていくことは賛成なのですが、けっして障害者を代表しているものではないということを忘れてはいけません。
田中:2020年は誰もがスポーツを楽しめる社会にしようというきっかけになると思います。でも誰もがというときに、必ずしも競技スポーツに限ることはなく、スポーツそれ自体を楽しむことが大切なんです。運動が苦手な人も楽しめたり、チャレンジできたりする。チャレンジするレベルは、必ずしも競技レベルに設定する必要はなくて、やってみたいと思う種目をやれる機会を広げる。キャッチフレーズは「誰もが楽しめて挑戦できる」です。
今後さまざまな職業に障害者が就いてくると社会は変わってくると思います。障害者に選択肢の多い社会が目指すべき社会の姿なのではないでしょうか。
スポーツ庁オリンピック・パラリンピック課(前:文部科学省競技スポーツ課)技術審査委員会委員
スポーツ庁スポーツ・アカデミー形成支援事業中間評価委員会委員
一般社団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会参与
一般社団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 街づくり検討委員会委員
一般社団法人日本パラリンピアンズ協会アドバイザー
東京都オリンピック・パラリンピック準備局「新規恒久施設等の後利用に関するアドバイザリー会議」委員
International Journal of Sport and Health Science 編集委員
日本スポーツ精神医学会評議員
日本体育スポーツ政策学会理事
NPO法人日本ソーシャルフットボール協会参与
一般社団法人日本障がい者サッカー連盟理事
一般社団法人日本車椅子バスケットボール連盟理事
神奈川県スポーツ推進審議会委員
神奈川県エアロビック連盟諮問委員会委員長
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