世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年9月25日

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 トランプの演説を褒め過ぎです。ハリルザードはブッシュ政権で駐アフガニスタン、駐イラク大使を務めたアフガニスタン生まれの外交官で、著名なこの地域の専門家ですが、どういう料簡でこういう論説を書くのか訝しく思います。彼がトランプの演説を書いたのかと疑いたくなります。

 トランプは演説で戦略を「劇的」に変更すると述べて、論説に紹介されている諸々の要素を5本の柱に整理し、これをオバマの戦略を否定する形に仕立てて提示しています。しかし、いずれの変更もアフガニスタンの状況を顕著に変えることにはなりようがありません。増派といい、パキスタンに対する圧力の強化といい、過去に試されたことです。駐留兵力に人為的な撤退期限を設けず、現場の司令官に作戦行動の自由を与えたことは新しいことかも知れませんが、それでタリバンその他のテロリストの平定が容易になるとも思われません。トランプの戦略は、現在の手詰まり状態を維持し、敗北を免れることにとどまるでしょう。この論説は、トランプの和平協議に対する立場は現実的だと評価していますが、演説は「米国の仕事はテロリストを殺すことだ」と言っており、テロリストを退治するまでは政治解決については何もしないといっているに等しいものです。

 「劇的」といえば、パキスタンの行動を公にこれ程露骨に非難した米大統領はいなかったと思います。この論説もパキスタンに厳重な態度で臨むことを最も重視しているように読めます。2011年にクリントン国務長官とペトレイアスCIA長官がパキスタンに赴き、アフガニスタンの過激派への支持を止めるよう強く要求したことがありますが、これに腹を立てたパキスタンがインド洋の港からアフガニスタンに至る米軍の補給ルートを数ヶ月にわたって閉鎖したことがあります。今回もパキスタンは早速反発しています。今回もパキスタンが何らかの妨害に出た場合、米国は、この論説が示唆するような対抗措置を本気で考えるのかも知れません。

 これまで米国はインドとパキスタンの間にあって「正直なブローカー」の役割を演じて来たように思われます。近年、ブッシュ政権以来のインドとの戦略的関係の構築の努力(当初は原子力協力がその中核で、近くは軍事協力)によって、インドに大きく傾いていますが、この演説は「正直なブローカー」の役割を決定的に放棄するものかも知れません。この地域に大きな地政学上の変動を惹起する危険を内包するもののように思われます。当然、パキスタンを中国に更に追いやることになるでしょう。確かにパキスタンの領域がタリバンなど過激派集団の聖域となっていることは重大な問題ですが、他方、パキスタンの協力なくしてアフガニスタンで戦争は戦えません。インドに対しアフガニスタンに対する経済援助を増強するよう要請していますが、アフガニスタンに対するインドの影響力の浸透に神経を尖らせることが、パキスタンがタリバンなど過激派集団をその庇護の下に置く動機の一つであることに配慮がなされたのかも定かではありません。

 トランプの演説の最も「劇的」な部分は、パキスタンに関する部分です。この演説について、トランプが将軍達に説得された結果だと推測する向きがありますが、国務省の意見がくみ取られていない疑いがあります。


  
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