2024年11月25日(月)

この熱き人々

2017年11月20日

 29歳の時に、室屋は3000万円の借金をして飛行機を手に入れた。ローンで家を買えば誉められるかもしれないが、競技用の飛行機となると「何考えてるんだ」とすべての人が反対する。

 「この道を進もうにも、飛行機がなかったら前に進めない。どこかで何かを決断し、自分で動き始めなければどうにもならない。中古だけれど無理して最上クラスのものを買いました」

 飛行機はお金がかかる。エアショーなどをこなしながら、スポンサー探しに走り回る。月末の支払いの度に、もはやこれまでかと思いながら続けてきた。地を這(は)うような努力をしながら、技術を磨くためのトレーニングに励む。

 トレーニングの1回の飛行は15分。それが燃料も集中力も限界だという。高度や速度、ターンや回転のタイミングなどのプログラムを2時間ほどかけて綿密に練り上げ、飛行後にそれをチェック。どこが違ったか、なぜ違ったかを突き止めて、再び準備。1日2フライトが時間的にも精一杯だ。

 室屋の曲技飛行の総飛行時間は1000時間を超える。自動操縦で飛んでいても加算される飛行時間とは訳が違う。全神経を集中させた15分を積み重ねた結果の1000時間が「世界の室屋」を作り上げたのである。

 自由に練習できる環境を求めて福島に移住したのは99年。「ふくしまスカイパーク」は、その前年に農作物を小型機で運ぶために整備された農道離着陸場だったが、多目的活用の文言にすがって使用許可をもらった。が、本来の目的である農作物輸送の利用低迷で2003年には廃港論が巻き起こった。本拠地を失う危機に瀕した室屋を助けたのは、10人の飛行仲間たち。NPO法人を立ち上げ、06年には福島市の指定管理者として「地上と大空を結ぶ航空公園」というコンセプトを掲げ空港の運営にあたっている。

 「最初は空港の本来の目的と違うし肩身が狭かったんですが、いろいろな方に助けてもらって、今は自由にトレーニングできるようになった。本当にありがたかったです」

 移住してきた自分を支えてくれた福島に恩返しをしたいという思いと、航空文化がこの福島から根付いていってほしいという願いをこめて、世界転戦の合間には子供たちの航空教室や航空スポーツの啓発活動に精力的に携わっている。

 今年のレースは、10月15日のインディアナポリス大会が最終戦。操縦技術世界一の夢を実現し世界にその名前を轟かせる室屋の技は、11月には岡山県の笠岡ふれあい空港のエアショーと岐阜県各務原市の航空自衛隊岐阜基地の航空祭で披露される(※)。

※詳細は室谷さんの公式サイト:http://www.yoshi-muroya.jpで。

むろや よしひで◉1973年、奈良県生まれ。09年よりレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップにアジア人初のパイロットとして参戦。国内ではエアロバティックス(曲技飛行)・パイロットとして各地のエアショーに出演、航空スポーツ振興のための活動にも力を注ぐ。

岡本隆史=写真

  
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◆「ひととき」2017年11月号より


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