WEDGE REPORT

2017年11月20日

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風樹茂 (かざき・しげる)

作家、国際コンサルタント

作家、国際コンサルタント(kazakishigeru@gmail.com)。1956年、北海道生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。メキシコ留学後、中南米の専門商社を経て、南米アマゾンの奥地でODAプロジェクトの鉄道建設にかかわる。その後は、シンクタンク、研究所勤務などで、首相向けの政策提言、ODA援助、海外投資、NGOプロジェクトに従事。イスラム開発銀行のコンサルタントも経験し、30数カ国を踏査。石油関連事業でカタール、ベネズエラに駐在。

病気になり、追放される

 過酷な環境下、激務が何カ月も続いた。そのうち体調不良になる。キャンプ内の医療センターにいくと、血圧が160を越えている。会議中に日本語も英語も出てこないときがある。首筋から耳の付け根が痛い。脳溢血や脳梗塞の予兆かもしれない。心配になってドーハの病院で検査するが、問題ないという。疲労とストレスが蓄積されているのだろう。

 「日本に帰って検査したほうがいいよ。問題なければ戻ってくればいい」

 管理者はそういった。そこで日本に戻り、ある大病院でMRI検査を行ったが、とりたてて異常はなかった。ドーハに戻ろうとすると、「こなくていい!」という。

 派遣切りである。日本国内ならば労働法違反の疑義がある。だが半ばせいせいした。昔から命をすり減らす残業はめったにしない。仕事よりも、娯楽、酒、家族に価値を置くようにしている。拙著『サラリーマン残酷物語』(中公新書ラクレ)でも「職場を生き抜く8つの知恵の柱」で過労死・長時間労働撃退法を提言している。それなのに、撃退されてしまったのだからお粗末だ。

踊るカタール人、物凄い熱気だ

 企業が苦しい事情もよくわかる。カタールのようなお金持ちは強い。黙っていても人も企業も集まってくる。企業は激しい競争の中、入札価格を下げに下げてやっと取った仕事である。工期も伸ばせないし、予算上人も増やせない。自然個々人に負担がかかる。勢い、派遣労働者や請負の人間は使い捨てである。

 首都のドーハでオフィスに勤務できる仕事だったならば、別だったかもしれない。世界中の美味いレストランや、サルサが踊れるバーもあり、コロンビア、メキシコ、ブラジルなどのバンドがはいっている。ホテルにはディスコもある。ショッピングセンターではアイススケートさえできる。立派な美術館もある。郊外で砂漠ツアーを楽しんだりできる。カタール人は欧米に留学した外人慣れした人間が多く、開明的で気のいい人々でもある。

 けれども、アジアからのメイドが自殺したとか、無許可であろう私娼が殺されたという噂は何度か耳にした。また、カタール航空のサービスや食事は素晴らしいが、サービスするほうの乗務員は、男女関係などプライベートな生活が厳しく監視されている。私の職場でも女性がいるオフィスでは妊娠に気をつけろと言われていた。妊娠すると出国できないという。

 今はワールドカップの建設ラッシュで、ネパール、インド、バングラデシュ人労働者など1000人以上が建設現場で死亡しているといわれる。あの過酷な環境ではさもありなんと思う。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナル、ILO、海外メディアなどからの数々の非難を受け、FIFAやカタール政府はやっと重い腰を上げ、外国人労働者の労働環境の改善に乗り出した。

 さて、最近、開始された日本企業によるドーハとサッカースタジアムなどを結ぶ輸送システムの建設プロジェクトはどうなのだろうか? この日本国内でさえ、オリンピックのための新国立競技場建設作業で、若者が過労死している。若い女性記者が4年も前に過労死したことをNHKが今さらながら公表する事例もある。

 海外プロジェクトは国内よりも企業の裁量権が大きいのだから、十分配慮してもらいたいものだ。労働環境は民主主義を計る重要な指標のひとつである。

  
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