2022年7月3日(日)

サイバー空間の権力論

2017年10月31日

»著者プロフィール
閉じる

塚越健司 (つかごし・けんじ)

拓殖大学非常勤講師

1984年生。専攻は情報社会学、社会哲学。著書に『ハクティビズムとは何か』(ソフトバンク新書)、共編著に『「統治」を創造する』(春秋社)、など。TBSラジオ『荒川強啓デイ・キャッチ!』火曜ニュースクリップ担当としてレギュラー出演中(http://www.tbsradio.jp/dc/)。

音声を利用したスマートスピーカー

 次に本稿の主題である、人工知能を利用したスマートスピーカー(以下適宜スピーカーと表記する)について考察したい。スマートスピーカーとは筒型のスピーカーに音声操作で天気や音楽をかけさせるといった機能があり、主に自宅等に据え置くものだ。日本では2017年10月、グーグルから「Google Home」(1万4000円)、LINEから「Clova WAVE」(1万4000円)が発売された。さらに2014年11月にアメリカで販売を開始し、この分野の最大手であるアマゾンの「Amazon Echo」も年内に発売することが発表されている(値段もおそらく上記ふたつと大差ないだろう)。加えてソニーが2017年12月にスマートスピーカーを発売すると発表した。中身はGoogleのサービスを利用していることから基本的にGoogle Homeと大きな差はないが、スピーカーの音質やデザインなどの領域にソニーの独自性を発揮させるとのことである。

 筆者はスマートスピーカーが持つ潜在的な能力は2つに分けられると感じている。ひとつは「1対多数のスピーカー」、もうひとつは「人格=人間性を感じるスピーカー」である。どういうことだろうか。

(1)1対多数のスピーカー

 ネット掲示板やSNSなど、インターネットツールは人々のつながりを重視してきた。しかしネットへの接続元であるデバイスは、パソコンであれスマホであれ基本的に1人で専有するものであり、多少の例外はあれ基本的に1対1の関係に限定されることが多かった。それに対してスマートスピーカーは、多人数に向けられたものである。

 グーグルのスマートスピーカー「Google Home」は、登録すれば最大6人まで声を聞き分ける「ボイスマッチ」機能がある。リビングに置かれたスピーカーに向かってスケジュールや自身のプレイリストを再生させる場合、スピーカーは声によってユーザーをききわける。自宅で父親がリビングで好きな曲を選曲させたとしよう。すると妻や娘がそれに反対して自分の好きな曲をかけさせようとする。その時、車のように電子機器を操作することなく、スピーカーに呼びかけるだけで曲が変わる。これは何気ない家庭の一コマだが非常に重要な意味をもっている。それは、スマホのように1対1の関係ではなく、コンピュータとの関係が他者にも伝わる点であり、これが予期せぬコミュニケーションが発生するかもしれない。父親の選曲した曲が、娘の好みに合っていたものだとしたらどうだろう。一日のスケジュールを読み上げる中で妻の空いた時間を知ったらどうだろう。そこからコミュニケーションが発生する可能性は十分予測できる。あるいは、(そのような機能があるかは別にせよ)親子ケンカした後に、父がスピーカーに謝罪の言葉を述べて、それを子供が帰ってきたときに(父の声ではなく)スピーカーに読み上げてもらう、といったこともできるだろう(敢えて実際の声でない方が恥ずかしさに耐えられよう)。

 お茶の間=リビングは戦後、テレビ番組などを中心に、家族で一緒のコンテンツを共有させる装置として機能した。個室化に伴いお茶の間がなくなって久しいといわれるが、時間を共にしない家族であっても、1対多数に向けられたスピーカーを通して、新しい家族のコミュニケーションを模索することが可能であるように思われる。その意味で、スピーカーには「便利」を越えて、コミュニケーションに寄与する潜在能力があると言えるだろう。

関連記事

新着記事

»もっと見る