医療費や年金など、多くの先進国では国が福祉を提供することは当然のように考えられる一方で、最近では生活保護など福祉に頼るとバッシングを受ける現実がある。
福祉国家はどのように形成され、今後どのような道を歩むのか。財政が厳しいなかで、日本には福祉に関してどんな選択肢が残されているのか。
『福祉政治史 格差に抗するデモクラシー』(勁草書房)を上梓した一橋大学大学院社会学研究科、田中拓道教授に話を聞いた。
――福祉国家の歴史的な流れと、現在の福祉国家が置かれている現状をさまざまな分野を横断しながら書かれたのが今回の本です。専門分野を飛び越えて書こうと思ったのは、なぜでしょうか?
田中:今の日本社会は深刻な行き詰まりに直面しています。ひとつは少子高齢化。国立社会保障・人口問題研究所によれば、2060年には65歳以上が全人口の4割を占め、生産年齢人口は半減すると予測されている。医療費や年金などの社会保障支出は毎年1兆円規模で増えつづけ、GDPの200%を超える財政赤字は今後さらに膨れ上がる。世界でも最大の財政赤字国である日本が取りうる政策は限られています。
その一方で、正規雇用と非正規雇用、男女、地方と都市などの間で格差が広がっています。
――それに対し、政治もメディアも何も示していないと。
田中:メディアでも学問でも政治でも、こうした状況を総合的に捉え、なぜこのような事態に陥っているのか、他国とどこが違っていて、今後どのような選択肢が残されているのかはあまり議論されていません。
学問へ目を移すと、各分野で面白い研究は多くあります。ただし、細分化した学問の世界では分野を横断した研究を行いにくくなっています。私自身は、フランス福祉国家がもともとの専門でしたが、かなり専門を拡張し、さまざまな分野の蓄積を活用して本書を執筆しました。
――現状の日本の福祉モデルとはどんなものであると分析されますか?
田中:日本の福祉政策は、さまざまな制度のパッチワークで、今回の本の分類で言えば、自由主義レジームと保守主義レジームの折衷と言えます。
福祉国家の形成期に重要なのは、労働者と使用者間の権力関係でした。各国の政治制度の枠内でどの政党が中心となり、戦後のレジームを形成してきたのかに注目します。