オンリーワンのカスタムシューズ作り
平成13年(2001)、高橋さんは父親の跡を継いで社長に就任する。しかし時代はバブル景気もとっくに崩壊していて、ご多分にもれず宮城興業も大手靴メーカーからの注文が激減。倒産寸前の経営状態であった。
「本当に八方ふさがりでした。そこで一大決心して、これからは多品種小ロット生産でうちでしかできないオーダーメードの靴作りをやっていこうと決めたんです。社員全員から反対されましたね。新しい社長は何を考えているんだ、そんなことできるわけないと」
そりゃあそうだろう。オーダーメードの靴は英国ではビスポークシューズと呼ばれて、靴職人が一人一人足のサイズを測ってラスト(足型)から木型を削って作らなければいけない。出来上がるまで1年ぐらいはかかり、1足50万円なんてざらの世界である。
だが、高橋社長が考案した宮城興業オリジナルのカスタムメードシステム「謹製誂靴(きんせいちょうか)」はちょっと違う。100通り以上もあるラストサンプルからフィットするものを選んでもらい、それを微調整することで仕上げるのだ。革の種類やデザイン、ソールなども細かく選ぶことができて、木型を削ってゼロから作るビスポークよりも、はるかにリーズナブルな価格でオンリーワンの靴が作れるのである。
「町の靴屋さんってほとんどなくなっちゃったでしょう。ですから謹製誂靴の取扱店も、本格靴にこだわるセレクトショップさんなどに変更したんです。思ったとおり、そういったお店からの注文が次々と入るようになり、おかげさまで宮城興業の靴でなければダメだというリピーターが全国に増えています」
工場を見学させてもらうと、革の裁断からグッドイヤーウェルト製法によるソールの縫いつけ、仕上げに至るまで、「カスタムメード」とはいえ職人の手作業で行われている。
靴好きから日本のノーサンプトンと呼ばれていますねと言うと、高橋社長は「寡黙で粘り強くて、とことんまで質の向上に打ち込む。そんな山形県人の気質は、ちょっと英国の靴職人に似ているかな」と、照れながら答えてくれたのでありました。
写真・阿部吉泰
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