そういう両親の寄進したものの隣に、こんどは昭二氏による上原近代美術館が建っているのだ。そんな奉仕の気持の積み重なりで、ここはくつろぎの丘となっている。
また美術館に戻って絵を眺める。そうだ、須田国太郎だ。ぼく自身この画家の渋い絵が好きで、そこのところの好みには共感する。昭二氏のその好みはどういうものなのか。美術館の人に聞いてみると、意外なかかわりがあった。
大正製薬のシンボルは鷲のマークだ。これは昭二氏の考案による。このシンボルが定着すると、鷲の絵の優れたものが欲しくなった。それを社の宝としたい。信頼する画商に相談すると、そこで須田国太郎の描く鷲の絵を紹介された。昭二氏はその絵を一目で好きになり、買い求めた。さらに鷲だけでなく、花や風景など、須田作品のすべてに魅せられて、コレクションは広がっていった。
ぼく自身、須田国太郎の鷲の絵は知らなかった。須田は鷲が好みなのか、かなりたくさん描いている。鷲はデザインやイラストレーション、マンガの世界などにはよく登場するが、絵として描いたものは記憶にない。そこに渋い須田の絵筆が立ち向っているのが意外だけど、見ているとそれが意外でもなくなってくる。須田の描く鷲は足がぐんと太く、恐竜みたいだ。渋い須田国太郎の、奥に潜む何かを見せられたようだった。
現在収蔵された須田作品は約50点にも及ぶ。須田は下田にも訪れていて、下田独特の、2階までなまこ壁で飾った家を盛んにスケッチしている。この場所でそのスケッチを見ると、その臨場感に親しみが湧いてきた。
(写真:川上尚見)
【上原近代美術館】
〈住〉 静岡県下田市宇土金341 〈電〉0558(28)1228
http://www.uehara-museum.or.jp/
大正製薬名誉会長の上原昭二氏が収集・愛蔵した美術品の寄贈のもと、氏の私財によって2000年に開館。宇土金(うどがね)は母の出身地で、美術館は両親(正吉・小枝夫妻)の菩提寺のすぐそばに建つ。菩提寺のまわりを賑やかに、そしてこの地域に貢献したいという2つの思いが動機だという。現在、須田国太郎、安井曾太郎、ドランほか日本・西洋の近代絵画、彫刻など300点弱を所蔵。また美術作品のほか関連の書簡も収集している。館長は昭二氏の次女大平吉子氏。傍らに、両親の寄付によってできた上原仏教美術館がある。
〈開〉 9時~17時 *入館は16時30分まで
〈休〉 無休 *展示替えのための臨時休館あり
〈料〉 一般800円
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