外国からの圧力をかたくなに拒み、人民元安を誘導する中国は、
輸出主導で莫大な経常黒字を積み上げてきた。
世界中が不況に苦しむなか、一転して人民元高を容認し、
今度は、ここぞとばかりに稼いだ外貨で海外資産を買いまくる。
果ては国すらも支配下に置こうとする中国の思惑が見え隠れする。
米国による人民元引き上げの要求がくすぶるなか、中国商務省の陳健次官が1日の記者会見で気になることを言った。「人民元の上昇は一般的に、中国企業の対外投資には有利に働く」。輸出企業を担当している商務省は、これまで人民元の上昇に最も強く反対してきた官庁の一つだ。
人民元の引き上げについて米中の間で握りができているのだろうか。そんな風にも勘ぐれるが、実際に企業買収や権益確保の好機到来と読んでいるのは間違いない。豪・クィーンズランド州のアルファ町。人口わずか400人の田舎町が、にわかに脚光を浴びている。中国の国営資源会社が豪州企業と組んで73億米ドルの投資に乗り出すからだ。
豪州で最大の石炭鉱山がそこに誕生する。採掘した石炭を港に運ぶために全長490の鉄道も敷設する。「中国パワーは小さな町を一変させるばかりでない」と英誌エコノミスト。何しろ昨年の世界の石炭消費量の46%を占めているからだ。
中国マネーが買っているのは資源ばかりではない。春先から当局が国内の住宅バブル抑制に乗り出すや、豪州やベトナムで不動産を物色している。ギリシャ危機を引き金にユーロが売り込まれた際も、中国の政府系ファンドである中国投資有限責任公司(CIC)は「欧州への投資は売却せず維持する」と大見えを切った。
カネに困ったギリシャに「国債を購入するよ」と持ちかけてみたり、アルゼンチンに鉄道投資を打ち出したりと、札束をしたたかに外交カードとする辺りはいかにも中国らしい。アフリカの資源国には開発資金を提供するばかりでなく、自国の労働者まで「輸出」している。これなどは、新植民地主義と言えないこともない。
狙いは「技術」
日本についてはどうか。繊維大手、山東如意科技集団は5月にレナウンを傘下に収めると発表した。斜陽のアパレルメーカーを購入してくれる分には、実害がない。中国での日本ブランド人気を見込んでの買収だから、山東集団側にも十分な目算があってのことだろう。日中双方にメリットがある話だ。
中国の家電量販店大手、蘇寧電器系の投資会社が2009年6月、ラオックスの筆頭株主になったのも同様だろう。だが、日本のモノづくりの基盤になる産業にまで手を伸ばしてくるとなると、話は違ってくる。
機械部品の元になる金型はその典型だ。中国の自動車メーカーの比亜迪汽車(BYD)が4月、車体成型の技術を得るために金型大手のオギハラの工場を買収。また、部品メーカーの寧波韻昇は09年12月、旧いすゞ自動車系の電装品メーカー、日興電機工業の株式79%を取得し傘下に収めた。日本はようやく危険に気付き、金型業界の再編に動いたが、1ドル=80円の円高に中堅・中小企業は青息吐息。中国マネーが甘い話を持ちかければ、買収話に乗る企業が相次いでも不思議ではない。