2024年12月22日(日)

前向きに読み解く経済の裏側

2017年12月16日

 NHKの受信料をめぐり、12月6日に最高裁の衝撃的な判決が出ました。受信料を払わない人に対し、受信料を払わせるためにはNHKが個別に裁判を起こす必要がある、というのです。そんなことをしたら、巨額の費用がかかってしまいますが、裁判費用を惜しんでいると不払いの人が急増しかねません。受信料で経費を賄う制度は、大きな曲がり角を迎えたと言えるでしょう。

(Dorling Kindersley/iStock)

 もともと受信料制度には大きな問題がありました。逆進的であることです。所得税は、所得が高いほど税率が高くなる累進課税なので、貧富の格差を縮小する機能を果たしていますが、受信料は貧しい人でも豊かな人と同額を徴求されるのです。消費税は、10倍買い物をした人が10倍払うのに、それでも逆進的だと言われて軽減税率が導入されたりしているわけですから、それと比べると明らかに不合理ですね。

 不払いの問題、逆進性の問題がなくても、わざわざ受信料を徴収する手間だけでも大変です。したがって、筆者は今次判決を変革の良い機会だと考えています。選択肢は二つあります。一つはNHKを公共放送ではなく民間企業にして、見たい人だけ受信料を払って見るようにすること、今ひとつは受信料制度を廃止して、税金でNHKの費用を賄うようにすることです。

不払い者には見られないような装置を?

 一つの選択肢は、受信料を不払いの人はNHKが見られないような装置を付ける、というものでしょう。しかし、これは逆から読めば、「見たい人だけ受信料を払いなさい」ということですから、民間の有料放送と同じことですね。

 国鉄が民営化してコスト削減に励んで黒字になったことを考えると、NHKも民営化して民間企業と競争させるという案は、一見魅力的に感じられます。NHKが民間企業と真正面から戦って勝ち目があるのか、といった疑問もなくはありませんが、そこは必死に頑張ってもらうしかありませんね。大リストラが断行されるでしょうが、それは仕方ないでしょう。労働力不足の時代ですからNHK職員が失業して路頭に迷うこともないでしょう。

 問題は、NHKの公共放送としての機能が失われて良いのか、ということです。筆者が気になるのは3点です。ひとつは、スポンサーに配慮した番組編成になり、公平性に問題が生じかねないという可能性です。今ひとつは、福祉関連の番組など、採算はとれないけれども国民にとって必要な番組をどうするのか、という点です。これについては、赤字ローカル線を地方自治体の補助金で運営しているのと同様に、政府提供番組を民営NHKおよび既存民放で放映すれば良いでしょう。お笑い番組は不要ですが、朝のラジオ体操なども、是非続けて欲しいものです。

 より深刻な問題は、ニュースです。民放は、視聴率がとれそうな番組を作ることが仕事ですから、極端な話ですが芸能人の不倫のニュースばかり放送し、北朝鮮を巡る超大国同士の国際交渉といった面倒で取材費用の高そうな番組は作らないかもしれません。しかし、そうしたニュースの方が、国民にとって遥かに重要かもしれないのです。そうしたニュース番組をしっかり費用と時間をかけて放送することも、公共放送の重要な使命なのですが、そうした機能が国内から消えてしまうとすれば、それは国民にとって大きな損失でしょう。


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