2024年4月27日(土)

World Energy Watch

2018年1月9日

大気汚染対策‐石炭削減政策

 2013年に北京市を中心に、2013年から17年の5年間に実行される「大気汚染防止・管理行動計画」が策定された。微小粒子状物質PM2.5を5ヵ年で2012年比25%削減することを目標にした政策だった。その槍玉にあがったのは北京市の石炭火力発電所だった。

 1953年に開始された中国の第一次5ヵ年計画において計画された156事業の一つが、北京市の石炭火力発電所であり、一号機、国花石炭火力は1958年に運転を開始した。その後、1999年に運転を開始する華能石炭火力まで北京市には計4基の石炭火力が建設されたが、「行動計画」を受け電源を天然ガス火力に転換することとなり、石炭火力は2014年から相次いで閉鎖された。2017年の3月には運転開始後20年に満たない華能発電所も閉鎖された。中国における石炭火力の発電量シェアは図‐2の通り、波を描きながら減少している。石炭消費量も図‐3が示すように2014年から減少を始めた。

 しかし、PM2.5の数値の改善は捗々しくなく、2016年7月北京市、天津市、河北省は天然ガス供給を増やし、産業用石炭の天然ガスあるいは電気への転換を進めることを決める。さらに9月には環境保護部が地方政府と共同で北京市の南部4区などで暖房用石炭を天然ガスあるいは電気に切り替える政策を発表した。

 しかし、2016年末になっても、「行動計画」の2017年の目標値には達していなかったことから、2017年3月中央政府と地方政府は、北京市、天津市と河北、河南、山西省の22都市に、石炭ストーブを天然ガスあるいは電気で代替する目標を与える。10月末までに、各市は5万から10万の石炭ストーブ、計最大280万台、を代替する目標を設定された。8月になり、目標は10月末までに最低300万台に引き上げられた。

 2017年1月から11月までの北京市でのPM2.5の平均値は58㎍/㎥に減少した。「行動計画」が目標とする60㎍/㎥を下回ったが、例年12月の数値は比較的高めに推移するので、年平均値が目標を達成するかは確実ではない。また、WHOのPM2.5のガイドライン年平均10㎍/㎥、24時間平均25㎍/㎥をまだ大きく超えている。

凍える国民と操業停止に追い込まれる工場

 地方政府は、石炭からの切り替えを強力に推し進めた。例えば天津市だけで1万台の石炭ボイラーが廃止され、河北省では約15万世帯の設備が電気に転換され、省は目標を130%達成したと伝えられている。400万世帯が石炭からの転換を行ったと推測され、午後8時以降の電気料金の割引を決めた北京市では、郊外だけでも100万台の電気を利用する暖房器具が導入された。結果、北京市の最大電力需要は10%押し上げられた。

 しかし、政策の実行を急ぐあまり地方政府はかなり強引なことも行った。河北省の小学校では暖房ができなくなり、日が照っている間は暖を取るため校庭で授業を行った。山西省の建設現場では石炭で暖を取っていた建設労働者が拘束されたと報道されている。また代替の暖房器具がない家庭の石炭設備を当局が廃棄したケースもでたため、最低気温が零下になる地域で暖房設備を持たない家庭が多く発生したとも伝えられている。結局、12月4日になり、石炭あるいはその代用品の使用を認めると環境保護部が発表することになった。

 さらに、代替の天然ガス需要の急増も供給不足を引き起こすことになった。北部の暖房用に天然ガスを優先的に供給するため、南部でも天然ガスが不足することになった。四川省と重慶市の化学工場は3月までの生産停止あるいは操短を命じられた。ドイツの化学会社BASFグループの重慶工場は、ポリウレタン繊維の原料を生産できなくなり、顧客に対し不可抗力宣言を行ったと報道されている。


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