研究を支える研究者以外の人材の層の薄さもある。産学連携を調整するコーディネーターや、実験を技術的に援助するテクニシャン、研究資金の配分のしかた研究プログラムの企画立案などを担うプログラムオフィサーなどの人材だ。「研究者になれなかった人たち」という見方をされることが多く、自らすすんで就こうとする博士号取得者などは少ない。結果、スタッフ人材の層が厚い欧米などに比べて、日本では研究者のみが孤軍奮闘するような状況も多く見られる。
こうした「独法化の失敗」ともいえるような状況を懸念していた国会議員もいたということになるだろう。「国立研究開発機関」の制度には、これらの金、時間、人などの問題を解決することが期待されている。中間報告では「新しい研究開発を担う法人の姿」として、複数年度にまたがる予算の繰り越し、中期目標期間の10年間への延長、研究開発マネジメント人材の養成や輩出の強化などが謳われている。
「組織いじり」では独法化の二の舞に
独立行政法人格から脱却して、国のトップダウンで研究開発を進める国立研究開発機関。発足に伴い、現状の様々な問題が解決されれば、当然、基礎研究にも明るい光は見えてきそうだ。
だが、再編成に向けた動きが進む中で、閣内にも「待った」の声もある。昨年の事業仕分け人として「2位じゃだめなんでしょうか」と発言し、管内閣で行政刷新大臣になった蓮舫氏だ。「文科省の焼け太り作戦だ」とする。「焼け太り」は、火事に遭った後に事業がかえって豊かになることをいう。「総理を長とした内閣で予算編成を行うべき」(10月24日の閣僚勉強会)【http://www.asahi.com/politics/update/1101/TKY201011010490.html】。「柔軟な予算執行」と言いながら、予算の拡大につながるのではないかという懸念も声も周囲から聞かれるという。
「焼け太り」ならば、基礎研究を行う環境にとしては悪くはないだろうが、国民の税金の負担は増すことになる。一方で、もしトップダウン型のマネジメントが、単なる「組織いじり」で終わってしまえば、「独法化の二の舞」といった批判を仰ぐことになりかねない。日本の研究開発の将来を考えても、失敗は許されない状況だ。成否を分けるカギはどの点にあるだろうか。
とりわけ基礎研究の発展という観点からすると、三つのキーワードが浮かんでくる。
「2位じゃだめか」に答えられるか
一つ目は、「基礎研究にふさわしい評価システムの確立」だ。
独立行政法人化の弊害の一つとして、研究者の「評価疲れ」がある。定型的な業務が中心の独立行政法人に対するのと同様の評価方法が取られており、度重なる評価で研究者は疲弊している。中間報告はこの問題に対しては「可能なかぎり数値目標のような国民に分かりやすく、客観的な指標の活用」をすることを提示している。だが、この評価方法は、基礎研究にもふさわしいだろうか。
現在の研究評価システムでも、客観性を保つためとして、論文引用件数や許取取得件数などの「数」による評価に頼らざるを得ない状況だ。だが、基礎研究は特許にもつながりにくく、研究期間も長期になりやすいため論文の本数も増えにくい。応用研究や開発研究に比べて基礎研究に対する評価には不利な点が多いと指摘される。基礎研究の重要性や特徴を踏まえたうえで、基礎から開発おけるどの位置に立つ研究者も公正だと感じられるような研究評価システムが確立されれば、基礎研究を行うことを考える研究者も増えるだろう。