2024年5月16日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年3月31日

 一見、完全な個人意志の「観光客」と見える人々が増えるに伴い、より多くの中国人労働者が必要とされ、各地の自治体は、「観光振興」の名の下、中国人労働者を受け入れやすくする奇策を推進し、次第に事実上の移民が増え、日本社会はますます中国人頼みとなり……。こうした循環を推し進めることで、いずれは日本を、「中国人の海に沈める」企みではなかったか。そんなことをも拙著では推察した。

 しかし、それもこれも、あまりにも多くの犠牲を出した大震災により、いったんは止められた。

苦難を起点に 問われる日本人の意思

 中国政府の思惑とは別に、私たちはこの機に、今般の現象を「労働力不足」というような表面的な見方に終始するのではなく、日本社会の根底的な問題として捉え直すべきではないだろうか。

 日本の多くの産業が、安い労働力を求めて中国へ工場を移転させ、それが、この10年以上、日本を苦しめ続けたデフレ道へ自らを引きずり込んできた一面があることは否めない。 

 その果てしない価格競争に敗れて破綻した日本の中小企業も少なくないが、一方で、必死の生き残りのために、国内でも、「研修生」等の名目で、安価な中国人労働力に頼らざるを得なくなっていた中小企業も少なくなかった。

 私たち消費者が、リーズナブルな「国産」と思って購入してきた日用品、食品にはこうした背景があったことを今、あらためて知るべきだ。

 さらに、これが日本人と日本社会にとっての問題というだけではなく、
働き手であった中国人にとってもそもそも健全なありようだったのか? この点も考え直すべきである。

 未曾有の震災がもたらした犠牲、それによる悲しみは、どんなことをしても拭い去ることはできない。だからこそ、せめて、この苦難を、われわれの住む国、社会の正常化への起点にできないものか。多くの点で、日本人の意思が今、問われている。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜

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