歴史的米朝会談が開かれた翌日、6月13日。韓国では全国地方選挙及び一部地域の補欠選挙が実施された。文在寅大統領の就任後約1年が過ぎた今の大統領に対する国民の評価を確認できる機会でもあった。
開票結果をみると与党の圧倒的な勝利だった。最も重要な市・都知事選挙では与党が14ヶ所で勝利し、わずか2か所の勝利に止まった保守野党の自由韓国党を圧倒。区市郡議長選挙、市・道議会、国会議員補欠選挙、市・道教育監選挙でも一方的な勝利を収め、朴槿恵元大統領の弾劾で瀕死状態にある野党をさらに壊滅状態に追い込んだのだ。
投票前の世論調査からも既に、与党の圧勝は予想されていた。保守野党は世論調査の不正確性、保守層にも関わらず積極的に意思表明をしない、いわゆる「シャイ保守」に「もしかしたら」と期待していたが、結果は壊滅的ともいえるような惨敗であった。
選挙結果は、文在寅政政権の1年間が国民に広く支持されていることを証明した。そして政権はこの支持率を背景に、今後の政権運営をより強力に広く推し進めていくことだろう。
選挙の異変-経済失速、セクハラスキャンダルにも与党を支持する国民
今回の選挙で、特徴的だった点がいくつかある。まず、経済政策が最悪の結果を出したにもかかわらず、国民が与党に票を入れたという点だ。
文大統領の就任後の1年間、韓国の就業率、失業者数、物価上昇率はいずれも、最悪の値となっている。中でも、政府が積極的に推進した「最低賃金引き上げ」と「労働時間の短縮」は裏目にでたと評価せざるを得ず、青年層の失業率上昇を導いた。
最低賃金引き上げは、一見、勤労者のための政策に見えるが、高騰する人件費を確保することの出来ない中小企業、自営業者たちは人員を削減することで対応せざるを得ず、かえって失業者の増加という結果を生んだ。また、勤務時間を制限する政策は、勤労者の休息を確保するという趣旨は悪くなかったのだが、勤務時間の減少は残業手当や時間外手当の減少となり、結果的に勤労者の所得減少を招いた。
通常、失業率が上がり、国民の所得が減れば、その責任は政府や与党に問われ、選挙においてはマイナスに作用する。実際、右派が政権交代を許した1997年、左派が政権交代を許した2007年の大統領選挙では、経済政策への国民の不満が政権交代の大きな要因だった。だが、今回の選挙では景気の低迷が問題視されている状況下にも関わらず、与党が圧勝するという異変が起きたのだ。
もう一つの特徴は、昨年から今年にかけて、世界的にも大きな話題となっている「Me too」、つまり性的被害を訴える運動とセクハラスキャンダルが、選挙結果に全くと言っていいほど影響を与えなかったということだ。
今回の選挙でその女性とのスキャンダルが暴露されたのは、昨年、野党(現与党)の大統領候補選にも出馬し、日本のマスコミでも大きく紹介されていた李在明 前・城南市長だ。
実は彼のスキャンダルについての噂は数年前から囁かれていた。彼は弁護士時代、集会で出会った女優、金某氏と付き合っていた。問題はこの時、彼は妻帯者であったことを隠し女優と「不適切な関係」をもったことだった。ここまでは以前から知られていたのだが、今回の選挙を前に、この女優、金某氏が新しい告白をして話題となった。
金某氏は過去に大麻を吸い逮捕歴があるのだが、彼女がSNSやインタビュー等を通して李氏に不利な事実を披露していたことに対し、李氏が「大麻の前科があるお前を、検事の友達に頼んでどうにかしてやる」と脅迫してきたというのだ。さらに、有名な言論人が李市長のために、彼女を説得、懐柔しSNSに謝罪文を書かせたという事実まで明らかになり波紋を呼んだ。
不自然だったのは、妻帯者であることを隠し、女優と関係を持った李市長が、彼女を脅迫までしたというのに、それまでMetoo運動や女性人権運動を繰り広げていた女性運動家たち、マスコミ、政治家たちが沈黙したということだ。
李市長、文大統領とともに昨年の野党代表選に出馬していた政治家で、有力な次期大統領候補の中の一人と目されていた安熙正 前・忠南知事が秘書の告白とMetoo運動の後押しで事実上政治生命を絶たれたのとは余りにも対照的な光景だ。
ともあれ、李 前・市長は首都圏である京畿道の知事選に出馬し、55%もの票を獲得しての当選を果たした。人口100万の地方都市市長から、1200万人の住民がいる巨大自治体のトップになったのだ。
経済状況も、スキャンダルも韓国国民の選択には何の影響も及ぼさなかったのである。今回の選挙、韓国国民は一体何を基準に、国民の権利を行使したのだろうか?