日本の災害を他人事と思えない「もうひとつの理由」
台湾の人々が日本の災害を他人事と思えない理由がまだある。それは日本への「身近さ」である。
2017年の統計でも、台湾人のおよそ5人に1人が一回は日本を訪れた計算となる。今回の豪雨で被害の深刻な岡山県倉敷市は、台湾人に人気の観光地のひとつだ。また筆者の故郷である山口県内でいえば、日本酒「獺祭」の蔵元が大変なダメージを受けたことは、台湾でも大きな話題となった。多くの台湾人にとって、日本は「熟的地方」(良く知った場所)である。旅行者として、もしくは生活者として滞在し、交流し、各地に友人もいる。
7月12日には謝長廷氏(台湾の在日大使館にあたる台北駐日経済文化代表処・駐日代表)により、日本側の窓口を通して2千万円の義援金が送られた。謝氏は京都大学に留学経験があり、日本の各都道府県すべてに訪れているほどの日本通だ。
日本のSNSでも、そうした台湾の対応に対して「ありがたい」「真の友人」という言葉を沢山みかける。それを見る度に、嬉しくなる反面、苦い気持ちも混じる。「台湾の真の友人」といえるほど、そして台湾人が日本について理解しているほど、果たして日本人は台湾のことを知っているだろうか?
アンバランスな日台間の相互交流
例えば先日も、台湾で出版された拙著について日本の大手新聞社の地方版で取り上げて頂いたのは有難かったが、タイトルに「台湾語で書かれた」書籍と表現されていた。ややこしい話ではあるが、台湾の公用語は一応「中国語」(北京官話)である。ただ台湾独自の用法や単語も多いので、私個人としては「台湾華語」と呼び表わすのが比較的正確だと感じている。
一方「台湾語」というと、福建語をルーツにもつ台湾ローカルの言語「ホーロー語」を指すのが一般的だ。現地特派員の方なら間違うはずのない部分だが、そうでなければ、大手新聞社所属の記者さんでさえ台湾の事情について不明瞭ということに、問題の根深さを感じる。
台湾ブームと言われ、台湾を訪れる日本人が増加している昨今だけれど、それでもまだまだ少ない。昨年2017年には、約2,350万人の人口のなかで台湾から日本への旅行者数は過去最高の456万4,100人に上った(日本政府観光局発表)。それに対し、台湾を訪れた日本人は190万人程度。人口比からいえば、かなりアンバランスな相互交流である。日本の地方自治体によるインバウンド取り込みが活発になってきたが、結局は最良の策といえば、双方の行ったり来たりが盛んになる事に尽きるとも思う。
現在、史上最高に良好だと言われている日台関係だが、これからも台湾のエンタメを楽しんだり、実際に台湾を訪れる日本人が増えることで台湾理解がすすみ、友好が更に深まっていくことを願わずにはおれない。
最後に、この度の豪雨で被災された方々に心よりお悔やみ、お見舞い申し上げると共に、被害に遭われた地域が一日も早く平穏な日々を取り戻されるようお祈りしております。
■修正履歴:台湾語についての説明で、「しかもこれには書き文字がないので(音をローマ字表記することもあるが正確とはいえない)『台湾語で書籍を記す』ことは不可能だ。」という記述を削除いたしました。2006年以降に台湾の教育部が、常用語彙について漢字を700字、また教会ローマ字を改良した「台羅 tâi-lô 」を定めたことによって、多くの教材や書籍が台湾語で記し出版されていることを、幾人かの研究者の方よりご指摘いただきました。ここに訂正してお詫びいたします。(編集部 2018/07/19 21:46)
京都市立芸術大学美術学部卒。2006年より台湾在住。日本の各媒体に台湾事情を寄稿している。著書に『在台灣尋找Y字路/台湾、Y字路さがし』(2017年、玉山社)、『山口,西京都的古城之美』(2018年、幸福文化)がある。 個人ブログ:『台北歳時記~taipei story』
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