「MS-13」とは
移民政策の中で、特にトランプ大統領が焦点を当てているのが、「MS-13」です。MSは「マラ・サルバトルチャ」の略で、1980代にロサンゼルスで設立されたエルサルバドル出身の中南米系のギャングを指します。「13」は、アルファベットの「M」が13番目であることに由来するといわれています。
トランプ大統領は、MS-13が米国の安全保障に対する脅威であると議論をしています。支持者を集めた集会で、MS-13のメンバーが銃を使用せずにナイフで相手を複数回刺して殺害すると繰り返し述べるのです。
「ナイフで何回も刺されるほうが、銃で殺されるよりも苦痛なんだ」
トランプ大統領は、支持者にこう語って恐怖心を煽ります。自身のツイッターに、「中間選挙で民主党に投票することは、MS-13をコミュニティーに野放しにすることと同等だ」と投稿しました。加えて、「移民は文化を変えてしまう」と主張し、移民が米国社会に否定的な影響を与えるという立場を鮮明にしています。
そのうえで、不法移民を取り締まる移民関税執行局(ICE)の職員を「勇敢だ」と称賛し、「移民関税執行局対MS-13」という対立構図を作りました。16年の米大統領選挙では、「白人労働者対不法移民」という対立構図を使って、支持基盤を固めました。トランプ大統領は、今回の中間選挙でも同様の政治手法をとっています。
懐疑心と恐怖心のテコ
このようなトランプ大統領の言動に対して、MS-13を取材しているジャーナリストのハンナ・ドレイア氏は、「トランプ大統領はMS-13は国内で最大のギャングで、最も暴力的で急成長しているという誤った印象を与えている」と指摘しています。米司法省の調査によれば、全米で約140万人のギャングがおり、そのうちMS-13は約1万人程度です。確かに、トランプ大統領がMS-13について誇張しているという見方ができます。
トランプ大統領は、厳しい国境管理を正当化する材料としてMS-13を利用しているとみて間違いないでしょう。もちろん最終目標は、票の獲得であることは言うまでもありません。
MS-13に加えて、トランプ大統領はオバマ政権の移民政策を「キャッチ・アンド・リリース」と揶揄し、それに終止符を打つことを約束しました。国境警備員が不法入国者を捕えると、彼らに電子機器の足輪を着け、審理日を告げて釈放をするのが「キャッチ・アンド・リリース」です。
トランプ大統領は支持者を集めた集会で、「国境警備員が不法入国者をせっかく捕まえたのに逃してしまう」と呆れた表情と動作を交えながら語り、「捕まえた不法入国者が指定された日時に移民裁判所に姿を現す確率は非常に低い」と強調しました。そのうえで、彼らが犯罪を犯すと指摘し、「不法移民=犯罪者」という支持者が持つステレオタイプ(固定観念)を強化するのです。
さらに、トランプ大統領は抽選でビザが与えられる「ビザ抽選制度」と、移民による家族及び親戚を呼び寄せる「連鎖移民」制度も廃止すると明言しています。「これらの制度を利用して入国した犯罪者が、あなたのコミュニティに入ってくる」と脅し、恐怖心を煽るのです。
要するに、「キャッチ・アンド・リリース」「ビザ抽選制度」並びに「連鎖移民」を犯罪とリンクさせ、恐怖心を動機づけにして投票に結びつけようとしているのです。典型的な「トランプ流」としか言いようがありません。
結局、懐疑心と恐怖心をテコにして、米国民を自身の意図する方向へ導こうとしているトランプ大統領の思惑をはっきり読み取ることができます。
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