2024年4月25日(木)

Wedge REPORT

2011年5月31日

 そしてそれを象徴する出来事もありました。5月10日の政府の復興会議で村井嘉浩・宮城県知事が提案した「水産業復興特区」の創設に対して、水産業関係者の間で「唐突だ」「生産意欲が減退する」などの困惑や反対の声があがったのです。「水産業復興特区」とは、養殖業等の沿岸漁業への民間参入や資本の導入を促進するためのもので、具体的には、養殖を行うための「区画漁業権」を、企業など民間へも開放するという内容です。漁協や養殖業者たちの多くは、あくまでも漁協を通じた個人単位での復興にこだわりますが、後継者が25%しかいないことや空漁場が既に多いことを考えれば、本格的な後継者育成や労働集約などを実行していかなければ、養殖業も衰退の一途をたどることは明白です。

漁協の組合員で株式会社設立

 では、漁協や漁業制度の改革には、どのように着手していけばよいのでしょうか。

 まず、漁業も海洋水産資源も、国民共有の財産です。誰かが独占してよいものではありません。漁業権を民間企業に開放するとともに、漁協を通じてではなく県が直接養殖業などの漁業権を漁業者に出すことが重要です。そして、漁業者は自分の漁業権を法的に登記するのが良いでしょう。そうすれば20万円から100万円もの漁業権行使料を、漁業者は漁協に支払わなくて済み、経営が改善されます。消費者もその分安く養殖のカキなどを購入できるのです。

 漁協の正組合員は、基本的に漁業者しかなれないため閉鎖的になりがちです。ここに、加工業者や流通業者などの関連業者も参加し、総会や理事会などを開催して、外に向かって情報発信をしていく必要があるでしょう。そのためには、行政が法律の改正を行う必要があります。このような内容の提言を、水産業改革高木委員会(2007年7月31日)にまとめ、2008年度の福田内閣の内閣府規制改革会議などで、水産業協同組合法の改正を提起しましたが、関係者の反対があったと見られ、合意に至りませんでした。

 このように、漁協の既得権が排除される動きに対して、彼らは全力で抵抗してきました。行政も、日本の漁業者の未来を思えば、半ば強制的にでも法改正などに踏み込むべきですが、実現してきませんでした。漁協は漁業権を財産として理解していて、手放したくないのです。

漁協に支払う様々な料金

 それでも、漁業権の開放に踏み切るためには、例えばやる気のある漁協組合員たちが集まって出資し、株式会社を作るということが有効と思われます。民間会社であれば当然利益をあげなければなりませんから、漁協のように古いしきたりなどに縛られることもありませんし、自分たちのためにも資源管理を含めて持続的な漁を実践していくでしょう。漁業に携わりたいけれども、特にコネクションがない、やり方が分からないという都会の人などがこういった会社で修業を積めば、後継者育成にもつながります。また、地域の加工会社が、漁業者と共同して漁業・養殖業を営んでも良いでしょう。

 熱海市に網代漁業株式会社という、まさにそのような形で設立された会社があります。現社長の泉澤宏さんは、「今の漁協は、力をもちすぎている。私が営んでいる定置網漁業に必要な定置漁業権も、地元漁協が優先される上、それ以外の者が漁をする場合には、行使料や協力金、海面使用料などといった様々な名目の対価性のない料金を漁協に納めなければならない」と、漁業の悪習と闘っています。ただでさえ魚の値段が下がり、儲からないことに加え、このような料金徴収があれば、新規参入者が少ないのも当然です。


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