2022年12月6日(火)

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2018年9月4日

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片田敏孝 (かただ・としたか)

東京大学大学院情報学環特任教授・日本災害情報学会会長

1960年岐阜県生まれ。豊橋技術科学大学大学院博士課程修了後、群馬大学大学院教授などを経て現職。東京都江東5区が組織した水害対策協議会のアドバイザーも務める。著書に『人が死なない防災』、『人に寄り添う防災』(共に集英社新書)など多数。
 

 昨年、米フロリダ州を歴代最強クラスのハリケーンが襲った際、同州知事が380万人を対象に避難命令を出したが、それを受け避難したのはなんと650万人。余りに多くの人が避難したため、交通渋滞やガス欠による路上放置車が発生する「シャドウ・エバキュエーション」が起き、過剰避難問題として議論されている。このような米国民の避難の根底には、徹底的に自分の命は自分で守るという主体性があり、行政が何を言おうとも自らの安全を最大限に考えた行動がとられる。この命を守る主体性こそ日本人に欠けているものではないだろうか。

 情報をどのように出そうとも、どのような制度を作ろうとも、命を守るためにそれらを積極的に活用する意思がなければ意味がない。行政が住民を守るのではなく、行政と住民が一体となり災害と向き合わなければ、これからの気象災害に対処はできない。わが国の防災力の向上には、行政と住民がともに地域の安全を共闘態勢で守る関係性の構築が必要とされているのではないだろうか。

高齢者救出に欠かせない
防災を通じたコミュニティ再生

 住民の自助努力を求めるにせよ、それがままならない高齢者などの要配慮者問題は災害対応において重要な問題である。今回の豪雨災害でも犠牲者に占める高齢者の割合は高い。

今回の豪雨災害でも犠牲者に占める高齢者割合は高い(KYODO NEWS)

 この問題は要配慮者問題として行政でも対応を検討しているが、災害進展期に行政の対応だけでは対処しきれず、地域コミュニティの力、共助の力が重要であるとの社会的認識が進んでいる。しかし、地域コミュニティが衰退している現状にあって要配慮者対策は思うように進んでいない。

 そこで、地域コミュニティが衰退したから防災が進まないという発想を捨て、「防災によって地域コミュニティを再生する」といった発想の転換が必要なのではないだろうか。地域共通の敵である災害にみんなで立ち向かえる地域コミュニティは、単に要配慮者対策に有効であるのみならず、地域の防災力の構築に大きな効果があることが見えてきた。

 昨年7月の九州北部豪雨の際、気象庁も予想できないほどの雨が急に福岡県・大分県を襲った。小石混じりの水が道路を流れ、避難もできない状況で大雨は降り続け、多くの犠牲者が発生した。そんな状況の中でも犠牲者を最小限に食い止めた現場が多くあった。

 こうした現場で住民に聞き取り調査をして気付いたことがある。それは、2012年の九州北部豪雨の経験を活かして、今度は河川の水位がここまで来たらなどの基準を自分たちで決めて、その基準に達したら避難勧告を待たず「みんなで」逃げることをルール化していたことだ。この「みんなで」逃げることこそが被害軽減において大きな効果を生み出している。

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