2024年4月18日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年10月30日

 上記スピーチは、日本の対アフリカ援助(のみならず途上国援助一般)の理念をよく表している。すなわち、「人づくり」を重視し、援助対象者のエンパワーメントに焦点をあて、彼らの主体性を重視する。民主主義、良い統治、経済構造の転換といった理念を推進するが、押し付けにはならないようにする。中国は「運命共同体」の理念を前面に打ち出しているが、独裁政権の強化、汚職の助長、環境破壊、債務の罠などの問題が指摘され、「新植民地主義」との批判が絶えない。

 河野外相のスピーチには、日本の伝統的な対外支援の理念に加え、「自由で開かれたインド太平洋」や「健全な債務管理」といった今日的課題が盛り込まれている。中国による「債務の罠」に対する懸念が広まっている中、健全な債務管理を重視し、国際的スタンダードに従って行われるべきであるとの原則に立つ、日本の推進する「質の高いインフラ」は、健全で魅力的なものに映る可能性があろう。

 支援においては、理念だけでなく援助額も当然問題となってくる。この点、前回2016年のTICAD6では、3年間で300億ドル規模の投資をすると表明したが、今年9月での実績は約160億ドルにとどまる。ODAが着実に進捗している一方、過剰債務が生じた一部の国への円借款が滞るなどしたためである。これに対し、単純比較はできないが、中国は2015年に、3年間で政府間援助、民間の投融資などにより総額600億ドルの援助をするとして、実現している。9月の「中国アフリカ協力フォーラム」でも再度600億ドルの援助を約束している。日本としては、中国に対抗するには、やはり額よりも質を重視するということになろう。

 なお、中国との関係では、対決一辺倒ではなく、河野外相は閣僚会合後の記者会見で「アフリカで質の高い国際水準に合致するプロジェクトがあれば日中が協力して行う可能性は大いにある」と述べた。成功するかどうかは分からないが、協力することで、中国の援助のあり方を健全で適正なものに誘導するという意図も含まれている。
 

  
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