2024年11月23日(土)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2018年10月25日

将来の米大統領?

 戸別訪問のキャプテンには、オカシオの文字が印刷された黄色、メンバーには紫色ないし白色のTシャツが配布されました。筆者はキャプテンのコリンズさんのチームに入りました。といっても、メンバーは出版社に勤務するコロンビア系米国人女性と筆者の2人です。

オカシオ・コルテツ候補のブロンクス区選対入り口(筆者撮影@ニューヨーク市ブロンクス区)

 早速、選対の裏にある駐車場でチーム別にキャプテンによる戸別訪問のトレーニングが始まりました。

 「ボランティアだと言うこと。お金をもらって雇われた戸別訪問のプロだと思わると有権者から拒否される可能性が高まる」

 コリンズさんはこう話すと、今度は戸別訪問のポイントを一言でまとめました。

 「戸別訪問では有権者と自分を結びつけることが一番大切なんだ」

 オバマ・クリントン両陣営で南部バージニア州などで合計7700軒以上の戸別訪問をこなした筆者にとって、コリンズさんのアドバイスはどれも基礎的な知識でした。

 しかし、白人男性の医師がヒスパニック系のオカシオ・コルテツ候補支持の黄色のTシャツと、紺色のブレザーを着用して同系の低・中所得層を説得することに違和感を持ちました。というのは、オバマ陣営では戸別訪問の際、人種のマッチングをしていたからです。ヒスパニック系、アフリカ系及びアジア系の運動員が、それぞれ同系の有権者の家を訪問して説得にあたっていました。

 「オカシオは国民皆保険を政策に挙げています。すべての人々に同等の教育の機会を与えようとしています」

 コリンズさんは低・中所得層のヒスパニック系の有権者にこうアピールして、支持を求めました。

 「我々はオカシオを代表して戸別訪問を行っているんだ。自分はオカシオの大使であるという意識を持つことが重要だ」

 コリンズさんがコロンビア系米国人女性の運動員と筆者に助言をしました。

 彼はオカシオ・コルテツ候補の傾聴のスタイルをよく理解していました。訪問先のあるアパートのエレベーターから降りてきた中高年の女性に、即座に声をかけて次のように問いかけたのです。

 「オカシオ・コルテツ選対でボランティアをしているキース・コリンズです。あなたはどのような争点に関心があるのか、語ってくれませんか。オカシオに伝えます」

 見事なタイミングで話しかけると、この女性は以下のように述べました。

 「安全に関心があります。このあたりは事件が多いですから」

 戸別訪問の最中、コリンズさんは必ず有権者が関心を持っている争点を聞き出そうとしていました。別の中高年の女性は、争点について次のように回答しました。

 「道路工事のために、家の前の道路が閉鎖されました。そうしたら、車で歩道を走る人がいました。見てください。歩道に亀裂が入ってしまいました。壊れてしまった箇所もあります。あそこには木が立っていたんです。ところが歩道を走った車が木に衝突して倒してしまったんです。早く家の前の歩道を修理してもらいたいです」

 今回の中間選挙では、トランプ大統領は移民政策を主要な争点に挙げて、彼らに寛大な姿勢を示す民主党を激しく攻撃しています。しかし、ニューヨーク州第14選挙区では極めて身近な問題に有権者の関心がありました。

 コリンズさんは有権者の本当の関心に興味を示し、積極的に傾聴していたのです。その結果、彼はヒスパニック系ではありませんが、彼らから確実に好感を得ていました。つまり、異文化の壁を破った戸別訪問を実施していたのです。

 振り返ってみると、オバマ陣営でも戸別訪問の際、傾聴を重視していました。ただ、同陣営では1軒あたりに割く時間を制限して、訪問軒数のノルマ達成を最優先していた面は否定できません。それに対して、オカシオ・コルテツ陣営では標的となっている有権者の声を徹底的に聴くことにエネルギーを費やしていました。

 「オカシオは女性でヒスパニック系で、しかもまだ若い。将来の大統領の下で我々は働いているのかもしれなない」

 戸別訪問が終了すると、コリンズさんはこうつぶやいていました。

キース・コリンズさん(左)と筆者

  
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