2023年1月31日(火)

食の安全 常識・非常識

2018年11月6日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤、リスクコミュニケーション担当)。(記事の内容は、所属する組織の見解を示すものではなく、ジャーナリスト個人としての意見に基づきます)

 私の取材の感触では、多くの食品企業は遺伝子組換えについては実は、「遺伝子組換えでない」も「できる限り混入を防いでいます」ももう表示したくない、という気持ちのようです。微妙な問題なので、社名を出して姿勢を明らかにしてくれるわけではないのですが。

 分別生産流通管理が行われた原材料を使っていれば、なにも表示しなくても法的には問題ありません。どの食品企業でも、お客様相談室にはもう、遺伝子組換えにかんする質問はほぼ来ない、といいます。一般消費者の遺伝子組換えへの関心は低く、遺伝子組換えについてわざわざ表示したところで、訴求力はありません。

 しかし、一部に非常に心配している消費者、運動家がいる。彼らの不安に火をつけ反対運動を起こされるような事態は避けたいので、「非組換え品種を原材料に用いて5%以下というのは押さえつつ、ひっそりしておく」という感じのようです。

 
すでに自主的に「遺伝子組換えでない」という表示は行わず、「混入を防ぐために分別流通された」という説明を行っている食品企業もある

 「不検出にするのはあきらめる。だけど、不検出〜5%の間の表示の文言で、やっぱり消費者に努力を伝えたい」という企業もないわけではありません。アピールし差別化をはかるのはおおいに結構なことですが、その表示により「遺伝子組換えが入っていない」とか「遺伝子組換えは危ないから排除すべきだ」と消費者の誤認を招くのは避けてほしい。誤認防止の観点からも、ポイント4は検討されるべきだと思います。

ポイント5:新制度による表示は平成35(2023)年4月1日から 

 制度切り替えの時期として示されているのは約5年後の平成35年4月1日です。ずいぶんと長い時間をかけて準備させるのだなあ、と思った人も多いことでしょう。消費者庁は、事業者による新表示の検討や包材の発注・印刷などに時間を要し、さらには中小事業者は包材を大ロットで発注し数年かけて使い切る、というケースもあるので、事業者の負担をなるべく小さくする必要がある、と説明します。

 以上、主なポイントを説明し、私見を述べました。これらはあくまでも案でありまだ確定していません。11月8日に締め切られるパブリックコメントの意見も考慮しながらさらに、消費者委員会食品表示部会等で検討されることになっています。業界団体や市民団体の動きも活発化しています。

 個人的には、「遺伝子組換えでない=不検出」が妥当な公定法で明確になれば、消費者には幾分わかりやすい表示制度となるだろう、と考えています。いずれにせよ、この表示制度は消費者の選ぶ権利を確保するものであり、安全性とはなんの関係もないことを消費者にしっかりと理解してもらう必要があります。私は食品表示部会のメンバーでもあるので、これからも取材し、消費者の誤認を招かない制度に向けて発言し、考えてゆきたいと考えています。

<参考文献>
・消費者庁・パブリックコメント
http://www.caa.go.jp/notice/consultation/

・消費者庁・遺伝子組換え食品の表示制度に関する情報交換会資料
http://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/pdf/food_labeling_act_181015_0001.pdf

・消費者庁・遺伝子組換え表示制度に係る食品表示基準の一部改正案(パブコメ案)に関する説明資料
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=235080047&Mode=0

・消費者庁・遺伝子組換え表示制度に関する検討会
http://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/other/review_meeting_010/

・厚労省・遺伝子組換え
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/idenshi/index.html

・世界保健機関(WHO)遺伝子組換えQ&A
http://www.who.int/foodsafety/areas_work/food-technology/faq-genetically-modified-food/en/

・The National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine・Genetically Engineered Crops: Experiences and Prospects
http://nas-sites.org/ge-crops/

・欧州食品安全機関(EFSA)・GMO
https://www.efsa.europa.eu/en/topics/topic/genetically-modified-organisms

・Washington Post・107 Nobel laureates sign letter blasting Greenpeace over GMOs
https://www.washingtonpost.com/news/speaking-of-science/wp/2016/06/29/more-than-100-nobel-laureates-take-on-greenpeace-over-gmo-stance/?utm_term=.1d78baf65faf

・日本消費者連盟・「新たな遺伝子組換え表示制度に係る食品表示基準一部改正(案)」についての意見
http://nishoren.net/new-information/10774


  
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