テレ東・プロデューサーが語る「テレビサバイバル」

2018年11月16日

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小林史憲 (こばやし・ふみのり)

テレビ東京・プロデューサー

1972年、東京都生まれ。98年、テレビ東京に入社。報道局で警視庁記者クラブ、「ガイアの夜明け」、「カンブリア宮殿」などの番組ディレクター、プロデューサー。北京支局特派員。現在はコンテンツ事業局・海外ビジネス部副部長。ドラマやアニメをプロデュースしながら、海外へのコンテンツ展開を進めている。著書に『テレビに映る中国の97%は嘘である』(講談社)、『騒乱、混乱、波乱、ありえない中国』(集英社)。

90件の激励に対して、600件のクレーム

 話を自民党総裁選に戻そう。今回の総裁選は開票前から結果はほぼ見えていた。重大な政治イベントとはいえ、投票の様子や決定の瞬間を全てのチャンネルが同じように伝える必要があるだろうか。新総裁が決まったら速報テロップで伝え、夕方のニュース番組で詳しく報じるというのも一つの判断だ。

 それは「戦略」というほどの大それたものではない。大きなニュースがあるたびに、編成局と報道局で協議し、テレ東としてどうすべきか悩みながら判断しているに過ぎない。一番大事なことは「視聴者が(テレ東に)求めていることは何か?」という視点である。

 ちなみに、東日本大震災で他局に先駆けて通常放送に戻したことについて、直後にテレ東には電話やメールを通じた抗議が約600件届いている。それに対し「普通の日常を待っていた」「応援しています」といった激励の声も約90件あった。

 600対90という数字が、そのまま世間の賛否の割合とは思わない。わざわざテレビ局に電話やメールをするのは、批判的な人が多いからだ。

 とはいえ、多数の人が独自の編成をしたテレ東をネガティブに見ていることはわかる。これは日本人の「横並び主義」に起因しているのではないだろうか。皆が同じ方向を向いている時に、別の方向を向いてはいけないという意識だ。「右向け右!」である。

 総裁選の時にテレ東が“普段通り”『マッドマックス2』を放送したことが、人々の話題になり、ニュースにさえなることも、同じ文脈だと思う。批判まではしないものの、独自路線を揶揄する感覚である。

 一方で、独自の編成を支持してくれた声が約90件あったことも事実だ。「横並び意識」が強い社会では少数派かもしれないが、そこに少なからず需要があるとも言える。

 しかも最近は、「他者と違う個性」を尊重する人も以前に比べて多くなったように感じる。「テレ東伝説」で言えば、以前は単にバカにする風潮だったが、最近はポジティブに捉え、揶揄しつつも面白がり、好意的に見てくれる人が増えたと思う。

「人との違い」を強みに変える

 テレ東は昔からスタンスを変えてない。予算と人が少ない状況がずっと変わらないからだ。そんな苦しい状況の中で、番組編成も番組を制作する現場も、いや全ての部署が、いかに視聴者に番組を見てもらうか、いかに他局と戦うか、日々知恵を絞り、奮闘している。

「独自路線でブレないやり方は、『戦略』ではない」と先に書いた。だが、長年に渡ってテレ東マン一人ひとりに染み付いた弱者としての戦い方が、集合体として“テレ東の戦略”になっているとは言えるかもしれない。それが結果的に一定のニーズをつかんでいるのだと思う。

 ちなみに、自民党総裁選の際に石破元幹事長を支持した小泉進次郎氏は、投票の後にこうコメントしている。

「日本のこれからの発展は人との違いを強みに変えられるかが大事だ。もっと多様な選択肢のある、異なる存在や声を社会の強みに変えていける、そんな日本でなければならない」

 小泉氏もまた、横並びのニュースより『マッドマックス2』を観たい人なのかもしれない。

小林史憲(テレビ東京・プロデューサー)
1972年、東京都生まれ。98年、テレビ東京に入社。報道局で警視庁記者クラブ、『ガイアの夜明け』、『カンブリア宮殿』などの番組ディレクター、プロデューサー。北京支局特派員。現在はコンテンツ事業局・海外ビジネス部副部長。ドラマやアニメをプロデュースしながら、海外へのコンテンツ展開を進めている。著書に『テレビに映る中国の97%は嘘である』(講談社)、『騒乱、混乱、波乱、ありえない中国』(集英社)。

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