「二ノ国」は業界内で評判が良かったが、過剰に小売店が仕入れた原因の1つは、「仕入れ担当者がゲーム雑誌の評価やメーカーの実績をもとに仕入れる量を決めている」(ゲームソフト会社幹部)点にある。
ゲーム雑誌で高評価を得る要素は、単純にゲームの面白さだけではない。「ゲーム雑誌にとって、メーカーは広告のクライアント。雑誌とは別に、人気ゲームの攻略本は数十万部売れるドル箱で、出版にはメーカーの協力が必要。ビッグタイトルに低い点数はつけにくい」(関係者)事情があり、ユーザーの視点がないがしろにされやすい面がある。
また、「メーカーも、高評価を得るため過剰に広告費を支払っている面もあり、しわ寄せが開発費にきている」(前述のゲームソフト会社社長)。
メーカー、雑誌、小売りの都合が優先され、業界とユーザーの間に距離感が生まれている。
開発現場は町工場レベル
「日本のゲームソフト開発現場は、言葉は悪いですが町工場レベル。合理的な開発スタイルを採用した海外勢に追いつかれてしまった」
家庭用ゲームソフトの開発を行うゼロディブ(東京都・千代田区)の原神敬幸社長は、こう警鐘を鳴らす。
海外のゲームソフト開発の現場では、「ゲームエンジン」と呼ばれる、主要な処理を行う共通プログラムが普及している。例えば、ゲーム上で人間が「歩く・走る」といった動作を一からプログラムする必要がなくなり、開発の省力化につながる。その分、操作のし易さや、効果的な演出など、「ゲームをいかに面白くするか」という部分に専念できる。
「日本の開発者は、人間の動作ひとつにも細かいこだわりを持ち、一からプログラムしなければ気が済まない人も多い」(原神氏)ため、海外勢にあっという間に開発ノウハウの面で追いつかれたという。
開発プロセスも内向きだ。アメリカでは、多数のテストプレーヤーを雇い、上げられた声を開発にフィードバックする。冒頭で紹介したファイナルファンタジーの謝罪文において、プロデューサーの田中弘道氏は「構造的な問題でユーザーの皆様からのフィードバックを迅速に反映することができませんでした」と述べている。同社広報も「発売前にテストプレイは実施した。だが、その意見を十分反映できた訳ではなかった」と語る。日本のゲームソフトは「プロデューサーの作品」という色合いが強く、開発に外部の目が入りにくくなっている。
リスクの少ない国内に安住し、海外の市場開拓を怠った面もある。家庭用ゲームの黎明期、国産ゲームは黙っていても海外で売れた。だが、ゲーム機の性能向上に伴い、表現方法が多様化し、国ごとの好みがはっきりと分かれてきた。
現地のニーズを取り入れるため、海外スタッフの活用を試みたが失敗も目立った。「何でも言うことを聞く国内協力会社との仕事が中心のプロデューサーも多く、言語や文化の違うスタッフを満足に使いこなせなかった。数十億円の損失を出した会社もあった」(業界関係者)。成功事例もあるが「リスクを冒すより利益の出る国内市場に注力しようという雰囲気だった」(前述の業界関係者)という。
日本のメーカーにとって、国内市場は今も重要な位置を占める。だが、旧態依然とした体制を温存したままでは、海外に打って出る力を蓄えられないばかりか、国内ユーザーにも見限られるだろう。
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