2024年12月23日(月)

日本を味わう!駅弁風土記

2011年9月13日

伝統的な販売形態である駅弁の立ち売りは、現在全国でも数駅を残すのみ。
中部エリアで唯一の駅弁立売駅である美濃太田駅では、
茶飯の上にマツタケとタケノコと鶏肉などを載せた古風な釜飯が、
1998年に新築された都市近郊の通勤通学駅に生き残る。

 駅弁の立ち売りは、懐かしさを感じさせるものだと聞く。しかし素直に書くと、私にとっては懐かしくない。JRの時代、あるいは平成の時代から鉄道に乗り旅行を始めた世代にとって、駅弁は売店で買うものである。立ち売りからの購入は、むしろ珍しく、そして新鮮な体験である。

 昭和30年代までは、当たり前であった。昭和40年代には、その数を減らしていった。昭和50年代には、まだ残っていた。その後は絶滅へ向けたカウントダウンを続けている。駅弁の立ち売りが行われなくなった理由は、鉄道が汽車の時代から新幹線や特急の時代になり、車両の窓が開かなくなったことから始まるというが、つまりは駅弁の買われ方が変わったため、売られ方も変わったということである。駅弁も商売のひとつであるから、その姿を時代に合わせて変えていく。

全国でも数少なくなった立ち売りの駅弁の1つ

 それでもこの21世紀に、日常的に駅弁が立ち売りで販売される駅が、全国で5駅も残っている。福岡県の鹿児島本線折尾駅、熊本県の肥薩線人吉駅、栃木県の東武日光線下今市駅、福島県の常磐線原ノ町駅(東日本大震災により休止中)と、今回取り上げる岐阜県の高山本線美濃太田駅である。これしかないが、これだけはある。中部エリアでは、美濃太田駅が唯一である。

 美濃太田駅では2種類の駅弁が売られている。代表作は、というより駅へふらりと立ち寄って買える駅弁はだいたい「松茸の釜飯」。聞くだけでおいしそうな名前である。松茸の季節によらず、一年中販売されている。釜飯の駅弁でよく使われる、1人前サイズの陶製釜型容器に、茶飯を詰めて、おかずで覆い、やはり陶製のふたをして、漬物を別添し、掛紙をかけて、割りばしを置き、ひもでしばる。

美味しそうな松茸が敷き詰められて…

 松茸は小振りのスライスであるが、飯の3分の1はこれで覆う。千円に達しない駅弁である割には、量が確保されている。歯応えを感じるには厳しいかもしれないが、出汁をしっかり吸い、奥ゆかしい香りを感じられる。

 煮物として添えられるタケノコとワラビとフキは薄味に仕立てられ、松茸の味にもうまく合う。少量の鶏肉も煮られて脂が抜け、とてもさっぱりしているから、やはり松茸を邪魔しない。おかずの下部にしっかり詰まる茶飯が、どの具に当てても引き立て役となる。これをグリーンピースとサクランボで彩る手法は、釜飯駅弁の定番である。


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