海野素央の Love Trumps Hate

2019年1月1日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授 心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08年~10年、12年~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年と12年米大統領選挙で研究の一環として日本人で初めてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。激戦州南部バージニア州などで4200軒の戸別訪問を実施。10年、14年及び18年中間選挙において米下院外交委員会に所属するコノリー議員の選挙運動に加わる。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。中西部オハイオ州、ミシガン州並びに東部ペンシルべニア州など11州で3300軒の戸別訪問を行う。20年民主党大統領候補指名争いではバイデン・サンダース両陣営で戸別訪問を実施。南部サウスカロライナ州などで黒人の多い地域を回る。著書に「オバマ再選の内幕」(同友館)など多数。

ファーウェイと米中貿易戦争

 ロイター通信が昨年12月、トランプ大統領が中国製通信機器に対する米企業の使用禁止を盛り込んだ大統領令を、早ければ今年1月に発令することを検討していると報道しました。仮にその報道が真実であれば、その意図は複数存在するとみた方がよいでしょう。

 まず、ファーウェイと同じ中国通信大手の中興通訊(ZTE)製機器を米市場から排除するためです。ファーウェイの5G(第5世代移動通信システム)参入に対する米国の警戒感が働いたと見ることもできます。

 それらに加えて、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで昨年12月1日に開催された米中首脳会談で決定した3月1日までの90日の猶予期間に、中国側から通商協議で譲歩を引き出す思惑もあると解釈できます。

 ただ、トランプ大統領の本当の狙いは違うところにあります。率直に言ってしまえば、世論形成、票の獲得及びロシア疑惑に対する米国民の意識の希薄化にあります。

 中国政府とファーウェイがサイバースパイ活動で協力をしているという有権者の疑念を強化し、事実化してしまうのです。中国政府と「民間企業」の仮面を被ったファーウェイが、次世代通信機器を利用して米国政府や米企業から機密情報を吸い取り、しかも通信網を破壊できる能力まで有しているという認識を有権者の間に広めます。そうやって同社が極めて危険企業であるというレッテルを貼り、世論形成を図ります。

 ポイントは、中国とファーウェイに対する有権者の恐怖心を最大限煽ることです。トランプ大統領は16年米大統領選挙で、恐怖心が票につながることを充分学習しました。

 上で紹介した米NBCニュースとウォール・ストリート・ジャーナル紙による共同世論調査によれば、米国民の10%が中国を肯定的に捉えているのに対して、46%が否定的にみています。中国叩きは票に直結するのです。

 トランプ大統領には中国をモンスター(怪物)に、自身を米国第一主義を貫く強いリーダーに描き、民主党候補に対して高得点を稼ぐというシナリオがあります。このシナリオは、中国に批判的な議会民主党の協力も得やすいという計算に基づいたものです。

 トランプ大統領は、「(前回の大統領選挙で)サイバー攻撃を仕掛けたのは、ロシアかもしれないし、中国や北朝鮮かもしれない」と述べて、ロシア疑惑から米国民の関心をそらそうとしてきました。中国政府とファーウェイが協力して、サイバースパイ活動を行っているとなれば、持論を正当化でき、しかもロシア疑惑に対する米国民の意識を希薄化させる絶好の機会も得ます。

 要するに、ファーウェイ問題は今年、経済的よりも、政治的意味合いが一層濃くなるでしょう。

 

 トランプ大統領はこの2年間、共和党支持者に守られてきました。上で紹介したクイニピアック大学の調査をみますと、共和党支持者の同大統領に対する支持率は81%で、依然として高水準を保っています。

 今後、トランプ大統領はモラー特別検察官によるロシア疑惑捜査に対する対抗措置として、ファーウェイ問題及び米中貿易戦争を支持率維持のための「材料」として利用し、ロシアから中国に米国民の目先を変える戦略にますます出てくるでしょう。

 トランプ大統領は、19年と20年を密接に連動させています。従って、今年は来年11月3日の投票日を強く意識した言動をとるはずです。

  
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