2024年12月23日(月)

From LA

2019年1月15日

 AR(拡張現実)はビジネスシーンでのガイド、ナビゲーション、インフォメーションなどで広く利用されるようになった。多くがスマホやタブレットを使用し、現実に目の前にある景色に説明や映像などを添える、という形式だ。

 一方、車の車内インフォテイメントシステムにもARは導入されている。多くの新しいモデルの車はダッシュボードなどに大型スクリーンを設置し、ナビゲーションはもちろんメールチェックや音楽、映画などのエンターテイメントコンテンツのコントロールが行われる。

 しかしスクリーン上で情報を見る場合、どうしてもドライバーの視線がそこに行ってしまい、時には危険な運転になることもある。ナビゲーションなど、目視確認が必要な場合は特にドライバーの視線が前方からスクリーンに移動する時間が長くなる傾向がある。

Wayray社のフロントガラス

 それを解決するために、「ホログラムにより車のフロントガラスにARによる情報を直接反映させる」、という技術を打ち出したのがスイスに本拠地を置くWayray社だ。超薄型のフィルムを車のフロントガラスに貼り、そこにナビゲーションを始めとする様々な情報をホログラムで投影する、という方法は話題となり、2017年にはロサンゼルスオートショーでトップ10自動車関連スタートアップ・コンペティションの勝者としてアナウンスされた。

 Wayrayは今年のCESで車のコックピットモデルをブースに設置、実際に利用者が座って車の走行と共にフロントガラスに映し出される情報を体験出来る、というシステムを提供した。さらに自動車メーカー、ジェネシスとの提携も発表され、ジェネシスの次世代モデルにWayrayの「ボログラフィックAR」システムが搭載されることが発表された。

 Wayray社では「このシステムを搭載することにより、ドライバーは自然に前方を見たままで必要な情報を得ることができる。ナビゲーションだけではなく現在の時速、道路の制限速度、前方の障害物などもチェックできる。自動車メーカーにとってはOEMでシステムを導入することで、従来のモニタースクリーンが占めていたスペースを有効利用することができる」という。

 デモではホログラム画面は5分割になっており、それぞれの画面に異なる情報を提示することもできる。例えばドライバー正面にはナビゲーションなど、パッセンジャー側にはショップなど、付近の情報をチェックできるコンテンツを出す、といったことも可能だ。Wayray社では「コンテンツについてはカスタマーが自由にカスタマイズすることができ、どのような需要にも対応できる」という。個人的な利用から商業利用まで、システムが導入可能な分野は幅広い。例えば配送用車両であれば、配送先と荷物の確認、倉庫内であれば在庫チェックと補充リストなど、必要に応じた情報を投影することができる。

 Wayray社は現在欧州、米国、アジアにオフィスを持ち、従業員数は250人。独自の技術によりこれまで集めた投資額は1億ドルに達している。ホログラムにはフロントガラスへの投影だけではなく、今後様々な可能性がある。例えば3Dアバターを投影し、パーソナルアシスタントとしてボイスコマンドで会話できる、といったことも考えられる。

 またホログラフィックARは車だけではなくボート、航空機、ヘリコプターなどにも搭載が可能だ。さらには今後の家庭用IoTを見据えて、家の窓ガラスや鏡にも同様のシステムで情報を投影することも視野に入ってくるだろう。

 ホログラムを使ったARやVRは現在参入する企業が多く、競争が厳しくなりつつある。2011年という早い段階でこの技術に注目し、多くの特許を取得しているWayray社にとっては今後大きなビジネスチャンスが待ち受けているかもしれない。車の車内モニターの主流がスクリーン形式になるのかホログラフィック形式になるのかも含めて、興味深い分野と言えるだろう。

  
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