「エネルギーのシルクロード」と「鉄のシルクロード」
金総書記がロシアとの関係改善の狙いの一つに経済問題を想定していることは間違いない。金総書記がロシアに入国してから出国するまでの6日間、前述のイシャエフ氏が特別列車に同乗し、随行役を務めたが、その間、車内で経済協力などをテーマに数回のイシャエフ氏と金総書記の会談が行われていた。その際、金総書記は、ロシア極東地域で北朝鮮の農業生産を展開することや、北朝鮮のビール工場やレストランを建設することに関心を示したという。
また、8月25日には、ロシアのバサルギン地域発展相率いる代表団が北朝鮮入りし、26日に、ロシアと北朝鮮の貿易と経済協力拡大に関する第5回政府間委員会が平壌で開催され、上記パイプライン計画や鉄道敷設計画なども協議された。
さらにここにきて注目されているのが、日本海に面する北朝鮮の経済特区、羅先市の開発問題である。北朝鮮は6月に、中国と協力して中国の丹東市に近い北朝鮮の黄金坪島とともに、羅先を経済特区として活性化させると発表し、同月、中朝共同羅先開発の着工式が行われた。そして、羅津港1号埠頭の開発が進められる一方、中国吉林省から同港へと通じる道路の補修・拡張工事や飲食店の建設なども行われている。来年には中国企業が火力発電所も建設する予定になっており、深刻な電力不足の改善が期待されている。
8月22日からは、4日間の国際商品展覧会が行われ、在日朝鮮人の祖国訪問などに利用された貨客船「万景峰」が、中国人など観光客向けの遊覧船としても登場した。 北朝鮮は同市で、中露との国境地帯を結ぶ査証なし観光や、中国吉林省からの自家用観光など、今年に入り多様な国境ツアーを開始し、中露からの観光客の誘致にも力を入れている。 ロシアも羅先にある羅津港3号埠頭の使用権を持っており*2、9月から同港の改築工事を本格的に開始した。つまり、3ヶ国の国境地帯となる羅先市で、中露が争う形になる。北朝鮮は外国人ジャーナリストを招くなど、当地の国際化と当地への投資の拡大と外貨獲得に躍起である。今後は、造船、自動車製造やハイテク産業などの大型産業の誘致も期待されているという。
そして経済協力の目玉として特筆するべきなのが、「エネルギーのシルクロード」と呼ばれる天然ガスパイプラインと「鉄のシルクロード」と呼ばれる鉄道の建設計画である。
韓国は慎重 天然ガスパイプライン構想
ロシアが提案したパイプライン計画は、極東サハリンの天然ガスを運ぶパイプラインをウラジオストクから北朝鮮経由で韓国にまで敷設する構想で、2017年に完成、韓国に30年間にわたって年間100億立方メートルのガスを供給することを見込んでいる。ロシアは北朝鮮の核計画放棄の見返りとして2005年くらいから提案をし、2008年の韓露首脳会談で同計画を推進することも合意されていた。天然ガスの供給が、北朝鮮の核放棄への褒美となり、また、昨年の韓国・延坪島への砲撃事件などで関係が緊張している韓国と北朝鮮の緊張緩和にも貢献する、北東アジアの平和を象徴するものだということも強調している。
同計画が始動すれば、北朝鮮は年間1億ドル(約77億円)ものガス通過料収入を得られることから二重の意味で経済的に利得がある。本件につき、金総書記は、「露朝韓の三国同盟は作らない」としながらも、構想が合意された際には、土地の提供などの用意があると表明している。
本計画に対し、北朝鮮は当初から肯定的な反応を示した一方、韓国は慎重な立場を見せてきた。韓国は、露朝間の経済交流の活発化が、北朝鮮の改革開放を促す可能性があることからも、反対はしないが、最終決定は核問題はじめ、政治問題によってなされるべきとしてきた。
ロシア国内でも懐疑論
なお、韓国は2015年からロシアの天然ガスを約750万トン輸入することで基本合意しているが、もし、本パイプラインが開通すれば、韓国の輸送費用が他の手段と比べて三分の一程度になるという試算も出されているが、韓国は、北朝鮮が本当にガスを確実に通過させるのか(つまり、抜き取ったりするのではないか)という疑念も持っており、計画実現には懐疑的だ。また、ロシア国内にも懐疑論がかなり強くあり、韓国へのガス供与もLNGの海上輸送などのほうが現実的だという声もあるのも事実だ。実際は北朝鮮の政治的姿勢次第と言って良い。