しかし、ロシア側は推進する姿勢を変えない。9月13日には、ロシア政府系天然ガス独占企業ガスプロムのメドヴェージェフ副社長が同パイプライン計画について、ガスプロム、北朝鮮、韓国の3者会談が非常に近い将来に行われると発表した。
また9月15日には、ガスプロムのミレル社長がモスクワの本社で、北朝鮮の金熙栄原油工業相と、件のパイプライン敷設構想をめぐり協議し、合同作業グループを設置することで合意して、覚書に署名した。さらに同日、ミレル社長は、訪露中の韓国ガス公社の朱剛秀社長とも協議し、同構想実現の「行程表」に合意、署名した。つまり、疑念を持たれながらも、同パイプラインの構想が具体的に動き始めたとも言える。
北朝鮮が期待する鉄道網の実現性
他方、北朝鮮は、シベリア鉄道と朝鮮半島縦断鉄道を連結し、物流網を構築することにも強い関心を持ってきた。本計画は、2001年8月のモスクワ宣言で確認されている。もし、この連結が実現すれば、北朝鮮は周辺諸国のみならず、欧州などへも効率的かつコストの少ない物流ルートを獲得できることになり、大きな経済効果が期待できるのである。しかし、鉄道網を構築するためには、韓国と北朝鮮間の軍事境界線を通過する朝鮮半島縦断鉄道の運行の実現や老朽化した北朝鮮のレールや送電線の近代化など、難問は山積している。
しかし、羅先の羅津駅とロシア極東のハサン駅間の全長54キロの鉄道補修工事は進められており、ここにきて、ロシアはその工事にも力を入れるようになった。9月9日には、ロシア鉄道のヤクーニン社長が同鉄道補修区間で、10月に初めての列車を試験運行させる計画を発表した。同社は、羅津港まで乗り入れが可能になれば、シベリア鉄道の物流の活発化につながるという期待を持っている。
110億ドルの債務 事実上の帳消し
そして、両国の経済関係で最も顕著な成果が、ロシアが北朝鮮の巨額の債務を帳消ししたことだろう。既述のように、北朝鮮の対露累積債務は計約110億ドル(約8450億円)にまで膨らんでいたが、9月14日に、ロシアはその負債を9割削減し、残る1割を北朝鮮での共同事業に充てる方針を決めたことが報じられた。事実上の帳消しである。*3
債務問題は、両国の経済関係強化を長年阻害してきたが、8月の首脳会談がロシア側の英断を引き起こしたようだ。債務問題については、2007年頃までは両国政府間委員会で協議されていたが、その後、進展が見られていなかった。
2012年には合同軍事演習も?
そして両国間の協力は軍事部門でも進展し始めた。両首脳が首脳会談を行っていたころ、ロシア軍は代表団を北朝鮮に派遣し、両国陸海軍の協力の再開と発展に加え、海難事故の遭難者の捜索や救助に関する合同演習の実施の可能性などを協議していたのである。そして、9月13日に、来年あたりにでも、海上での救難捜索訓練などの合同軍事演習を行うことが明らかにされたのだ。