2024年5月4日(土)

解体 ロシア外交

2011年9月29日

 近年、中国のアジアでの影響力は増すばかりであり、メドヴェージェフ大統領としてはソ連時代から友好国であった北朝鮮への影響力を取り戻したいという外交的思惑に加え、大統領選挙を前にして、2001年に金総書記を迎えたプーチン首相に対抗するという内政的な思惑もあると言える。この首脳会談に際し、アメリカは、ロシアが北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議の再開には北朝鮮が非核化に向け具体的な進展を示すことが必要だ、と説得することを希望していた。もしメドヴェージェフがその説得に成功すれば、国際的にも国内的にも、自身の政治手腕の良いアピールになる。この時には、既に次期大統領選挙に出馬するのはプーチン首相であるという方針は決まっていたと思われるが、同時に、「双頭体制」の継続も既定路線となっていたはずであり、そうであればやはり国内的にも政治力を示しておくこと重要なのは間違いない。

 他方、北朝鮮側も、金総書記の三男である金正恩氏が権力を継承することについて、ロシアの支持を取り付け、権力移譲をよりスムーズに行いたいという思惑があるはずだ(なお、今回の訪露団には正恩氏は含まれていない)。さらに、北朝鮮は故金日成主席の誕生100周年である来年2012年を、「強盛大国の大門を開く年」と位置付けているが、金総書記の随行者が投資や経済運営の実務者を中心に構成されていたことから、経済の停滞と中国への経済の過度な依存状況を、ロシアとの関係強化で打開しようとする思惑も感じられる。

 それでは金総書記の訪露で具体的にどのような進展があったのだろうか。

会談の成果と北朝鮮の外交カードとしての核問題

 初顔合わせともなる両者の会談は友好ムードで進み、2時間10分に及んだ。ロシアの望みが叶い、金総書記は同国核問題をめぐる6カ国協議に無条件で復帰し、その際に核兵器とミサイルの製造と実験のモラトリアム(一時停止)を行う用意があると表明したという。また、ロシアから朝鮮半島を縦断する天然ガスパイプライン敷設に向け「具体的な両国の協力内容を定める特別委員会」を設置することでも合意した。金総書記がメドヴェージェフ大統領に対して訪朝を招請したとも言われる。

 このように、政治、経済の両面で、停滞していた両国関係が再び活発化する兆しが見えたとともに、ロシアは大国のメンツを保ったと言える。

 そして、この会談によって、ソ連時代から累積している約110億ドル(約8400億円)に上る北朝鮮の対露債務問題の解決を目指す方向で両首脳が合意したことも明かされ、近年は行われていなかった、債務問題に関する協議も再開されることになったのである。

ロシアに貸しを作った北朝鮮?

 今回、北朝鮮が2008年12月以降中断している6ヶ国協議への復帰と核問題での譲歩の背景には、6ヶ国協議再開をめぐる動きを北朝鮮が主導するとともに、核問題をカードに、国内経済を立て直す手段を得ようとしたと考えられている。日米韓は、協議再開に際しては、北朝鮮が非核化に向けた具体的な行動をとることを要件としており、北朝鮮は明らかに日米韓にアピールをしたと考えられ、実際、核実験の一時停止は、北朝鮮にとって一番切りやすいカードであるとも言われてきた。さらに、今回の譲歩によって、ロシアは他の6ヶ国協議関係国(議長の中国と日米間)に存在感を示すことができ、それは北東アジアの安全保障のリーダーとしての存在感を強化したいロシアにとっては大きな意味があるため、北朝鮮はロシアに対して貸しを作る思惑もあったと考えられる。

 しかし、両国間の合意には温度差があり、ロシアにとって北朝鮮の操縦は容易ではなさそうである。合意内容の詳細と、会談後の展開を見ていこう。


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