安保激変

2019年2月1日

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村野 将 (むらの・まさし)

ハドソン研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。岡崎研究所研究員などを経て現職。日本国際問題研究所「安全保障政策のボトムアップレビュー」研究委員等を兼任。その他、Pacific Forum CSIS Young Leaders Program,米国務省International Visitor LeadershipProgram(National Security Policy Process)招聘。専門は、米国の国防政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策、シナリオ演習。

再注目されるブースト・フェイズ迎撃と未だ残る課題

 近年、ミサイル脅威の深刻化に伴って再注目されているブースト・フェイズ迎撃は、ミッドコースやターミナル・フェイズでの迎撃に比べて、(1)ロケットエンジンの分離前で目標が大きい、(2)弾頭やデコイの放出前で目標識別が容易、(3)迎撃に伴う破片落下などの二次被害を気にしなくてよい、といった利点がある。だがこのような利点があるにもかかわらず、今日に至るまでそれが実現してこなかったのは、様々な技術上・運用上の困難が克服できていないからだ。

 ブースト・フェイズ迎撃を困難にしている第一の問題は、迎撃猶予の短さにある。弾道ミサイルの燃焼終了までの時間は、原則として射程に比例する。例えば、ノドンのようなMRBMのブースト時間は約95秒と非常に短く、火星15のようなICBMでも180~290秒程しかない。更に、早期警戒衛星が発射を探知して情報を伝達するまでに40秒近いタイムラグが加わるため、ミサイルが燃焼を終了し、大気圏を離脱するまでの実際の対処時間はもっと短くなる。

 第二の問題は、迎撃システムの配備先が限られることだ。上記のような僅かなブースト時間内に迎撃を成功させるには、迎撃ミサイルを弾道ミサイルの発射が予想される地点に予め展開しておく必要がある。となると、ロシアや中国のように内陸部から発射されるミサイルをブースト・フェイズで迎撃するためには、発射地点を直接攻撃するのと殆ど変わらないストライク・パッケージを編成する必要がある。北朝鮮のような半島、沿岸国であれば、付近の洋上や同盟国の陸上に迎撃ミサイルを配備しておくという方法もあるが、発射された弾道ミサイルを後から追いかけて撃墜するためには、迎撃対象以上の推力・上昇速度が求められるため、必然的にICBM並みの巨大な迎撃ミサイルが必要となり、計画が頓挫した経緯もある。

 第三の問題は、迎撃体の有効射程である。迎撃システムを敵ミサイルの発射地点付近に予め配備しておくことが困難だとすれば、一定程度の遠距離からでも発射可能な初速の早い迎撃システムが必要となる。理論上、これを実現するためには、推力の大きい迎撃ミサイルか、高出力で連続使用が可能なレーザーが有効と考えられるが、そうしたシステムは実用に至っていない。

 また現在実戦配備されているミッドコースおよびターミナル・フェイズ迎撃システムの殆どは、分離後の弾頭に迎撃体を直撃させて破壊する(hit to kill)方式を採用している。しかしブースト・フェイズ迎撃では、ロケットエンジンの分離前で標的が大きい代わりに、弾頭を破壊し損ねると、生き残った核弾頭が核爆発を引き起こしEMP効果などを発生させるリスクもある。

 これらの諸課題を技術革新によって克服できるかどうかが、今後ブースト・フェイズ迎撃を実用化する上での課題だ。MDRで検討対象となっているのは、(1)F-35+空対空迎撃ミサイル、(2)無人航空機(UAV)+レーザーという2つの組み合わせである。

 迎撃ミサイルの発射母体にF-35を用いる場合、従来困難であった敵ミサイルの発射地点付近への接近を、そのステルス性で克服できるかもしれない。だがここ問題になるのは、戦術航空機特有の滞空時間の短さである。前述のように迎撃目標がICBM級であっても、ブースト時間は非常に限られるため、迎撃ミサイルを搭載したF-35を近傍の航空基地や空母から発進させたのではとても間に合わない。そのためこの構想を実現するには、F-35を予めミサイル発射が予想される空域に滞空させておく必要があるが、F-35が内部燃料だけで敵地上空の空中哨戒を行える時間は長くても1時間程度であろう。もっとも、敵に察知されることなく、ミサイルの配備予想地点まで侵入できるのであれば、発射を待つよりも先に敵のミサイル基地や移動発射台を攻撃してしまった方が確実とも言える。

 UAVとレーザーの組み合わせでは、発射地点に接近できない代わりに、F-35よりも長時間滞空できるという利点はある。他方課題となるのは、敵ミサイルのエンジンを破壊するだけの出力・射程・連続使用を可能にする機材をどのようにしてUAVに搭載するかだろう。高出力レーザーの研究で知られるローレンス・リバモア国立研究所の関係者によると、仮にUAVにメガワット級のレーザーを搭載できたとしても、固体燃料ミサイルを破壊するには200km以下、液体燃料ミサイルでも400km以下まで接近して照射する必要があると言う。またレーザーは、天候など大気の状態によって減退するため、一定距離から確実な出力を出せる電源等を開発することも技術的課題となるだろう。

 もっともMDRでは、F-35やUAVを弾道ミサイルや巡航ミサイルの早期探知・追尾に活用することも念頭に置かれている。もしブースト・フェイズ迎撃へのハードルが高くとも、これらのアセットに前方配備センサーとしての役割を付与できれば、既存の地上・洋上配備センサーや今後強化される宇宙配備センサーに加えて、より多層的で確実な探知・追尾・識別が可能となるのは間違いないだろう。そしてこれらの能力は、ミサイルの移動発射台を捕捉して攻撃する能力にも応用できる。MDRは、ミサイル防衛のような能動的防御(active defense)、抗堪化や分散・退避活動のような受動的防御(passive defense)だけでなく、抑止に失敗した際に実施する攻撃作戦(attack operation)を包括的なミサイル防衛を実現する重要な柱として位置づけている。このことは、日本が構築していく総合ミサイル防空体制にとっても無視できない示唆があるのではないだろうか。

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