2024年7月16日(火)

安保激変

2019年2月1日

ミサイル脅威の多様化、
「極超音速兵器」の3つのカテゴリー

 冒頭で述べたとおり、MDRでは弾道ミサイル脅威にとどまらない、多様な経空脅威に対処する必要性から、従来のBMDを発展させた「統合防空ミサイル防衛(Integrated Air and Missile Defense:IAMD)」という概念が示されている。これは2018年12月に日本政府が策定した新たな防衛大綱でも言及されている「総合ミサイル防空」(参照:http://wedge.ismedia.jp/articles/-/15093?page=4)とほぼ同じ概念であり、日米両国の方向性が一致していることは好ましいと言えるだろう。

 さて、今回のMDRの中で繰り返し言及されている脅威の一つが「極超音速兵器(hypersonic weapons)」と呼ばれるものだ。極超音速兵器とは、マッハ5以上で飛翔する攻撃兵器全般を指すが、それらは飛翔特性に合わせて3つの異なる兵器カテゴリーに分類することができる。

極超音速兵器のカテゴリー
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(1)弾道ミサイル

 第一のカテゴリーは、弾道ミサイルである。「極超音速」と言うと、あたかも新しい軍事技術のように思われがちだが、射程500km程度(あるいはそれ以下)の射程の短い弾道ミサイルを除き、殆どの弾道ミサイルの飛翔速度はマッハ5を超え、ICBMともなれば、その終末速度はマッハ20近くに達する。その意味で、大半の弾道ミサイルは極超音速兵器である。

 だが弾道ミサイルへの対処手段は、既にBMDという形で確立されている。弾道ミサイルを迎撃する際は、(1)弾道ミサイルの発射熱を早期警戒衛星が探知、(2)地上・洋上配備レーダーが目標を追尾し、弾道軌道を解析、(3)大気圏外で分離されるロケットエンジンや放出されるデコイ(囮)などの中から本物の弾頭を識別、(4)迎撃ミサイルから放たれた迎撃体が弾頭を直撃、(5)交戦時の赤外線反応等から迎撃の成否を評価、というのが基本的な流れになる。

 現在、実用化されているBMDには、米本土を守るGBIやイージス艦に搭載されているSM-3のように大気圏外で目標を迎撃する「ミッドコース(中間段階)」迎撃システムと、PAC-3のように再突入後の大気圏内で目標を迎撃する「ターミナル・フェイズ(終末段階)」迎撃システムの2つがある。ただし、弾道ミサイルの速度は射程に比例するため、マッハ20近くに達するICBMをターミナル・フェイズで迎撃することは質量や相対速度の関係上非常に難しい。このため射程1000km以上の中~長距離弾道ミサイルへの対処には、ミッドコース迎撃が基本となり、ターミナル・フェイズ迎撃は、短射程の弾道ミサイル対処用か、ミッドコース迎撃に失敗した場合の最終手段といった意味合いが強い。言い換えれば、ミッドコース迎撃の成否を分けるのは、弾道軌道解析と目標識別の正確さであり、それがクリアできれば、単発の弾道ミサイルを迎撃するのは現在の技術ではさほど難しくはなくなっている。

(2)極超音速巡航ミサイル

 だが第二のカテゴリーの「極超音速巡航ミサイル(Hypersonic Cruise Missile:HCM)」となると、より対処が厄介になる。従来、トマホークに代表されるジェットエンジンを使用した巡航ミサイルの飛翔速度は、基本的に亜音速(時速800km程度)で、迎撃には航空機への対処と同じように、防空レーダーと対空ミサイル/近接防護火器システム(CIWS)を用いればよいとされてきた。

 ところが近年、ロシアや中国はラムジェットないしスクラムジェットエンジンを搭載した飛翔速度の非常に速い、超音速・極超音速巡航ミサイルの開発・配備に力を入れるようになっている。巡航ミサイルは弾道ミサイルと異なり、飛翔経路・高度を変更出来る他、爆撃機や艦船に搭載できるものであれば、目標の360度から発射することが可能であり、防御側は全方位を常時警戒しなければならない。極超音速巡航ミサイルへの対処方法は、通常の巡航ミサイルと理論上同じであるものの、速度が速い分、飛翔経路の正確な追尾と、その速力・機動に追随しうる迎撃ミサイルが必要となるため、多方面から複数・同時発射された場合の対処がより難しくなる。そのため対抗手段としては、高速のミサイルが発射される前に、発射母体である爆撃機や艦艇、指揮統制・誘導を司るレーダーなどを攻撃できるようにする必要性が自ずと高まってくる。


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