選挙運動のスタイル
ニクソン流に加えて、一般教書演説でトランプ大統領は選挙運動のスタイルも取り入れました。例を挙げてみましょう。
トランプ大統領は政情不安に陥っている中米ベネズエラの「マドゥロ政権の残虐さを非難する」と述べ、「社会主義政策が、中米で最も豊かな国を絶望的な貧困の国に変えた」と厳しく批判しました。そのうえで、「米国は決して社会主義にはにならない」と強い口調で語ったのです。
このメッセージには、トランプ大統領の隠された意図があります。同大統領は昨年の米中間選挙で、民主党は極左で社会主義」とレッテルを貼って、攻撃してきたからです。2020年米大統領選挙に向けて、民主党候補指名争いにコリー・ブッカ―上院議員(東部ニュージャージー州)、カースティン・ギリブランド上院議員(東部ニューヨーク州)、カマラ・ハリス上院議員(西部カリフォルニア州)、エイミー・クロブシャー(中西部ミネソタ州)、ジョン・ディレイニー下院議員(南部メリーランド州)、タルシ・ガバード下院議員(ハワイ州)、フリアン・カストロ元米住宅都市開発長官及びピート・バディジーグサウスベンド市長(中西部インディアナ州)が出馬表明しています。同大統領は、彼らに早くも先制攻撃を浴びせました。
米朝首脳会談VSコーエン公聴会
トランプ大統領は、一般教書演説の中で2回目の米朝首脳会談を2月27、28日にベトナムで開催すると発表しました。しかし、約1時間22分間に及ぶ演説の内、北朝鮮に関する言及はわずか55秒で、5つのセンテンスのみでした。
前回のシンガポールでの米朝首脳会談は1日で、韓国KBSテレビによれば、トランプ大統領と金正恩朝鮮労働党委員長が会談した時間は約4時間でした。それと比較すれば、2回目は両首脳の会談時間が増すことになります。
米国では28日、ロシア疑惑解明のカギを握るトランプ大統領の元顧問弁護士マイケル・コーエン被告が米議会で証言を行います。3月から収監されるコーエン被告が何を語るのか、全米で注目が集まっています。
コーエン被告は、米メディアのインタビューの中で「モスクワのトランプ・タワー建設の交渉が、ロシアとの間で2016年の米大統領選挙期間中に行われていた」と語っています。コーエン被告によれば、同年6月まで「トランプ・タワー・モスクワ」建設交渉が継続していたというのです。
しかも、一部の米メディアは一族が経営する「トランプ・オーガニゼーション」がトランプ・タワー・モスクワの最上階にあるペントハウスをプーチン露大統領に提供することを検討していたと報じています。価格は5000万ドル(約54億9000万円)でした。
ちなみに、トランプ大統領の弁護団の一人である元ニューヨーク市長ルディ・ジュリアーニ氏は、「2016年11月までトランプワター建設の交渉は続いていた」と述べており、トランプ大統領側の発言に不一致が見られるのです。
一方、トランプ大統領は「選挙期間中、ロシアとビジネスをしていない」「ロシアとの接触はなかった」と主張してきました。ところが、米テレビ局とのインタビューでコーエン被告とジュリアーニ氏が「トランプ・タワー・モスクワ」建設の交渉時期について答えると、同大統領は「重要な取引ではなかった」と語り、ダメージコントロールを行いました。さらに、ロシア疑惑の捜査は「大統領に対するハラスメントだ」と自身のツイッターに投稿しました。
コーエン被告は、トランプ大統領とジュリアーニ―氏から家族が脅迫を受けていると語っています。
トランプ大統領には米朝首脳会談で、非核化に関して目に見える成果を上げ、米国民の目先をコーエン被告のニュースからそらせたい思惑があります。金委員長と何らかの「ビック・ディール」を成立させ、米メディアが取り上げるコーエン被告の記事の掲載を最小限に食い止めたいというのが、同大統領の本音でしょう。