ネズミの実験でも「野菜先食べ」はやせる
動物実験でも、同様な研究が行われている。ネズミにまず食物繊維の多い植物性の飼料を与え、それがなくなったら普通の飼料を与える。普通の飼料の「量」が「少ないケース」と「いくらでも自由に食べられる」ケースで、体重の変化を比較した。当然のごとく、少ないケースでは体重は減ったが、いくらでも自由に食べられるケースでは体重は減少しなかった。
ヒトでもネズミでも同じだが、体重の増減は「摂取カロリーと消費カロリーの出納」によってのみ決まる。すなわち、摂取カロリーが消費カロリーよりも少なければ体重は減少し、その逆であれば体重は増加する。
入院患者やネズミでは「摂取カロリーを強制的に少なくする」ことが可能なので、ダイエットはできるが、普通の人間ではそれ(強制的に摂取カロリーを減らすこと)ができないので、ダイエットはほとんど実現しない。
食べる順番(野菜を先に食べるか・後に食べるか)が体重の増減に影響を与える可能性はゼロではない(研究結果が少ないのでまだ結論は出せない)が、上記の「体重の増減の大原則」を覆すことにはなりそうもない。
ビジネスパーソンの「野菜先食べ」効果は不明
では次に、糖尿病の予防や治療に効果があるかないかについてみてみる。糖尿病かどうかを判断するための最も一般的な検査は空腹時血糖値の計測。前夜の夕食後から何も食べず、一番お腹がすいている時間(最も血糖値が低いとき)の血液を採取してブドウ糖の量を測るのが空腹時血糖値だ。この数値が126(mg/dl)以上が糖尿病。
近年、空腹時血糖値が126未満、つまり食後一定時間以上が経過すると血糖値が正常にまで下がるのだが、食後すぐ(30分~2時間)に血糖値が急上昇する人がいることがわかってきた。そしてこのこと(食後高血糖)が血管を傷め、さまざまな生活習慣病の要因となっていることも指摘されている。こちらは、空腹時血糖値検査では発見できないため、「隠れ糖尿病」などと呼ばれている。
食事の最初に野菜を食べると、この食後高血糖を抑えられるようだ。そのため、この隠れ糖尿病の予防や治療には「野菜先食べ」は有効な可能性が高い。ただし「食後に急激には血糖値が上がらない人」では、野菜を先に食べることにあまり大きな意味はなさそう。自分が食後高血糖になりやすいかどうかは特別な検査が必要。糖尿病家系だという心配のある人は、一度検査をしてみるという方法もある。
一般の多くの人にとって「野菜を先に食べること」が健康にいいかどうかは、研究数がまだ充分ではないので、結論は出せない。ただし、フランス料理のコースではメインディッシュの前に野菜サラダ(やスープ)が出るし、日本の懐石料理でも最初に汁物が提供されることが多い。「食文化には(科学的な)訳がある」ことが多いので、野菜を先に食べることにまったく意味がないということでもなさそうだ。今後の時間栄養学などの研究に期待したい。
ただし、これだけはいえよう。
「野菜を先に食べるとダイエットに成功する」ということを頭から信じて、そのあと山ほど食べるなどの食行動をしていては、体重は絶対に減少しない。あるいは「野菜を先に食べると糖尿病にならないらしい」ということを鵜呑みにして、適量をバランスよく食べることをないがしろにするようなことをしていると、生活習慣病になってしまうリスクは間違いなく増える。
健康情報・食情報を「自分の都合のいいように」解釈してはならない。
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