2024年4月19日(金)

韓国の「読み方」

2019年3月5日

同じ意味の漢字語でも翻訳には問題が…

 それだけではない。基本的には同じ意味で使われる漢字語にも、実は大きな問題がある。韓国語の単語は漢字語と固有語(日本語の「大和言葉」に相当する)に大別できるのだが、日本語よりも漢字語の使用比率がずっと高い。日本語なら普通は大和言葉を使うような場面で、韓国語では漢字語が選択されることが多い。結果として何が起きるかというと、韓国語での表現は日本人に実際よりも強く(きつく)イメージされてしまうことがある。

 歴史問題でよく出てくる「歪曲」という表現が典型的だ。韓国人は日常的にこの言葉を使うのだが、日本人はそれほど使わない。新聞のデータベースで昨年末までの10年間を調べてみよう。毎日新聞で「歪曲(わい曲)」を検索すると172件で、そのうち33件は「韓国」という言葉も使われていた。韓国とは無関係な記事で「歪曲」という言葉が使われたのは10年間で139件だ。一方で韓国の朝鮮日報では「歪曲」が4115件、そのうち「日本」も含まれるのが1197件だった。日本とは無関係な記事での「歪曲」使用は2918件ということになる。

 朝鮮日報で「歪曲」という言葉が使われた回数は毎日新聞の20倍にもなる。使用頻度が高ければ、言葉の意味合いは軽くなる。「日本は歴史を歪曲している」という同じ言葉を聞いても、日本と韓国では重みが違うのである。

 しかし意味は基本的に同じだから、翻訳する時に意訳するハードルは「親日派」より高くなる。意訳すると痛くもない腹を探られるような気がするし、言葉の意味が違うという注釈を付けるのも難しい。昔から違和感を持ち続けているものの、うまい解決策を見つけられないままだ。

「親日派攻撃」は国内用、日本は眼中になし

 文政権は当初から「積弊清算」を最優先課題として掲げてきた。そして実は、「親日清算」の対象とされるのも基本的に同じ人々=保守派である。文政権のような進歩派が保守派攻撃に使ってきたのが「親日」というキーワードなのだ。

 この点については、ちょっとした説明が必要かもしれない。「親日派」は結局、植民地支配下のエリート層を指す。日本の敗戦によって朝鮮が解放された後には、こうした人々を排除した新しい国づくりが行われるべきだと考えられた。庶民感情から言えば当然だろう。進歩派の人々はそうあるべきだったと考え、親日派を徹底的に排撃したという点において北朝鮮を高く評価する。韓国ではそうならなかったからである。

 背景にあるのは、朝鮮半島南部に進駐した米軍政が既存の統治機構を使う間接統治を選択したことだ。米軍政から脱して韓国が独立した直後には「反民族行為特別調査委員会(反民特委)」が組織されて親日派追及を行ったが、米軍政下で力を温存したエリート層を相手にしたものだけに結局は腰砕けの結果となった。その後、日本の陸軍士官学校を出た朴正煕大統領が日本との国交正常化を行い、日本から資金と技術を導入して経済開発を進めた。これを支えたのは日本との強い関係を持つエリート層で、財閥の多くも植民地時代に創業した企業だった。「産業化勢力」とも呼ばれる彼らは現在の保守派につながっている。そうした利権とは縁遠かった進歩派は「独立したのに親日派が依然としてうまい汁を吸ってきた」と考えている。

 保守派主導の開発独裁下で弾圧されながらも、1987年に民主化を勝ち取ったのが「民主化勢力」と呼ばれる現在の進歩派だ。民主化を契機にそれまで後回しにされていた社会保障制度の拡充が行われるようになり、福祉制度も整備されていった。しかし、高度経済成長の果実を享受してきた保守派の力は依然として強い。特に1997年の通貨危機(IMF危機)を乗り切るために新経済主義的な経済政策が取られて以降、格差拡大はさらに深刻化した。

 こうした現状認識を背景に出てくるのが「親日残滓の清算」発言だといえる。だから韓国の記者や政治家と話しても、現在の日本は全く関係ないのだと口をそろえる。ただし「親日派」とされる人々は当然のことながら日本と強い関係を持っていた。文政権は「親日派(の子孫たち)である保守派を積弊だと問題にしているだけで、現在の日本とは関係ない内政問題だ」と考えるものの、日本から見ていると心穏やかではないということになる。まったく困った状態なのだが、こうした構図を分かっていると少しは落ち着けるかもしれない。


  
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