インド経済を読む

2019年4月19日

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野瀬大樹 (のせ・ひろき)

公認会計士・税理士

大手監査法人にて、株式公開支援業務・法定監査業務・内部統制構築業務などに関わったのちに独立し、野瀬公認会計士事務所を設立。インドのニューデリーに、日本企業のインド進出を支援するNAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、代表に就任。日本インドの双方より、日系企業へのコンサルティング業務を行っている。近著に『お金儲けは「インド式」に学べ!』(ビジネス社)がある。

[著書]

インド経済にとって最大の「アキレス腱」とは?

 ただ、こうした政府の強気な姿勢には新たな懸念も感じる。

 パキスタン政府の「穏便に事を収めたい」という姿勢のおかげもあり、印パ危機は去ったように見えているが、今回の支持率回復に味をしめたインド政府が今後も強気な姿勢を続けた場合、その安全保障上の姿勢がインド経済に悪影響を及ぼす可能性があるのだ。

 現在のインド経済にとって最大のアキレス腱は、雇用問題でも国内需要の弱さでもなく、実は「ルピー安」だ。昨年後半の記録的なルピー安相場は底を打った感があるものの、まだその水準は低いままである。原油輸入国であるインドにとってルピー安は経常収支の悪化だけでなく、原材料価格の高騰が国内のインフレを招き、結果として個人消費に冷や水を浴びせる厄介な問題なのだ。ルピー安によって恩恵を受けるような強力な輸出産業もまだ育っていない。

「ルピー安」が招いた大手航空会社の経営危機

 このインド経済の懸念事項「ルピー安リスク」が顕在化したと言えるのが、まさにいま日本でも話題になっている「ジェットエアウェイズ騒動」だ。ジェットエアウェイズは国内第2位のシェアを誇っていた航空会社で、インドでは日常茶飯事の遅延や欠航が少ないことを売りにして業績を拡大。国際線も活発に飛ばすなどインド旅客業界で大きな存在感を誇っていた。

 実際、私もインド国内の移動でよく使っていたが、昨年半ばより徐々に欠航が発生しその数は日を追うごとに増加。4月18日以降は完全に運行停止になった。

 理由は経営状況の悪化。2018年初頭より続いたルピー安による燃料価格の高騰にもかかわらずシェアの死守を意識したジェットエアウェイズは航空チケットの値上げに踏み切れずにいた。そして予想以上に続いたルピー安により徐々に燃料費が経営を圧迫。パイロットに支払う給料さえ滞るようになり、ストライキなどが原因で欠航が相次いだのだ。ルピー安は国内大手航空会社を1年ちょっとで機能不全に陥れるほどのインパクトを持つ重要な経済上のファクターなのだ。

 ルピー相場に大きな影響を及ぼす安全保障は、経済とは切っても切り離せない関係にあり、その緊張は再び大きなルピー安を引き起こす可能性がある。事実、今年1月に上昇に転じていたルピー相場は印パが緊張状態になった2月に対ドルで急落している。

今後のインド経済を占う「外交政策」の行方

 インドのような成長途上の大きな国を安定した成長軌道に乗せるには強力かつ安定した政権が必須だ。インドでビジネスをしている私も今回モディ率いるインド人民党が支持率を盛り返した点には正直ホッとしている。中国とは違い民主主義国家で、移ろいやすい有権者の支持を得てそれを実現するのは難しいからだ。

 しかし、やや右派的性格を持つモディ政権が行う今後の外交上の判断次第では、「ルピー安不況」が顕在化するリスクも確かに存在する。

 5年目に突入したモディ政権は、当初ドラスティックな政策を次々打ち出すと考えられていたが、実際は良く言えば穏健で調整型とも言える国内向け政策をとっている。モディ政権の優勢で選挙が一段落したあとの外交は「穏健で調整型」になると私は希望も込めて予想しているが、果たしてどうだろうか。

  
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