専門医とは言い難い医師が診断する
高齢者の運転をめぐる制度の問題点として、さらに挙げたのが「認知機能検査」だ。75歳以上は「高齢者講習」を受ける前に、教習所で記憶力・判断力の判定を内容とした認知機能検査を30分程受ける。検査は記憶力や判断力の状況を確認するための簡易な手法であり、医師の行う認知症の診断や医療検査に代わるものではない。
検査終了後、採点が行われ、点数に応じて次の3つに分類される。
- 記憶力・判断力が低くなっている(認知症のおそれがある) → 第1分類
- 記憶力・判断力が少し低くなっている (認知機能の低下のおそれがある)→ 第2分類
- 記憶力・判断力に心配のない(認知機能の低下のおそれがない)」 → 第3分類
齊藤さんが特に問題視するのは、第1分類だ。「認知症のおそれがある人」である。この結果が出た場合は、後日、警察が本人に連絡をする。本人は、臨時適性検査(専門医による診断)を受け、又は医師の診断書を提出することになる。認知症であると診断された場合には、免許試験場で聴聞等の手続のうえで運転免許が取り消され、又は停止される。
齊藤さんは、この手続きの流れに疑問を呈する。
「そもそも、日本には認知症の専門医が少ない。医師などから、全国で2000人もいないと聞いたことがあります。実際、私が知る受講生は、第1分類となり、かかりつけの内科医で診断を受け、“問題はない”という診断書をもらい、免許試験場で更新されました。警察が何か疑問を感じても、現在の制度では免許を取り上げることはできない。できるのは、医師のみ。ところが、その医師が専門医とは言い難い。ここにも、制度の盲点があります。
聴聞等の手続のうえで運転免許が取り消され、又は停止されるとなっていても、私が知る範囲で言えば、ほとんどの人がパスし、その後、更新となり、車を運転しているのです」
齊藤さんが教えた受講生の中には、第1分類の人もごく少数いた。日常会話がほとんどできない人やジュースを意図的にテーブルにこぼして、無言で立ち尽くす人がいたという。トイレではないところで、立ち小便をする人もいたようだ。上北沢自動車学校には1ヵ月で、このような高齢者が1~2人のペースで現れる。